君主論 (中公クラシックス)
マキアヴェリ
中央公論新社 ( 2001-04-10 )
ISBN: 9784121600028


これまでにも『君主論』やその解説書を読んできたが、三度読んで、ようやく腑に落ちてきた。『君主論』は悪徳の書と揶揄されることもあるが、ビジネスマン・経営者必読の経営書・指南書と言える。何を成すべきで何を成さざるべきか。現代のビジネスシーンにも当てはまる。


マキアヴェリの挙げる「べからず」


  • 自国軍を持たずに傭兵や他国の支援に頼ること。
    • 現代的解釈:自社の社員の成長に責任を持たず、安易な企業買収に走ること。
  • 中立すること。
    • 現代的解釈:戦略不在。
  • 加害行為は一気呵成に行い、恩賞は小出しにすること。
    • 現代的解釈:断続的なリストラは社員の忠誠心を破壊する。
  • 君主は恨みや軽蔑を買ってはならない。
    • 現代的解釈:これは現代でも当たり前のこと。


本書は、巻末に重要キーワードの索引が設けられており、後から参照するのにとても助かる。例えば、「中立」を探すと、ページを指し示す以外に「決断力のない君主は中立を選ぶ」という要約も載せている。


『君主論』の時代背景


『君主論』の時代背景について、触れておこうと思う。マキアヴェリの生没は1469年~1527年。貴族の生まれで幼少のころよりラテン語・ギリシャ・ローマの古典を学ぶ。舞台は中世イタリアのフィレンツェ共和国。フランス、スペインが統一国家を築き、自国軍を持っていたのに対し、当時のイタリアは、日本の戦国時代と同様、群雄割拠の時代だった。ローマ教皇領、ナポリ王国、ベネチア共和国、ミラノ公国、そしてフィレンツェ共和国が5大国と呼ばれていたが、フィレンチェは、自国軍を保有せず、常にローマ教皇、ミラノ、ベネチア、フランス、スペイン、ドイツらの脅威に晒されていた。


『君主論』は立国論であり平和論だった。


ローマ帝国の栄枯盛衰、フィレンツェを取り巻く環境が、『君主論』で描かれている世界そのものである。かつて最強を誇ったイタリア。しかし、マキアヴェリの時代は国が分裂し、諸外国の脅威に晒され、祖国が喘いでいる。マキアヴェリの願っていたものは、イタリアの復興に他ならない。イタリアが復興するために、君主を何をすべきか?それを論じたのが『君主論』であり、「目的のためなら手段を選ばなくてもよい」というマキアヴェリズムは曲解と言え、間違っている。マキアヴェリにとっての「目的」は、祖国の復興であり、平和そのものと言える。自国の平和を守るため、君主は自国に責任を持ち、戦略を持って行動せよ、というのが『君主論』の趣旨である。現代の日本の政治家は、マキアヴェリの爪の垢を煎じて飲んでいただきたい。


波乱万丈のマキアヴェリの人生


1494年フィレンツェの僭主(実質の支配者)であったメディチ家の追放、メディチの後を継いだサヴォナローラも処刑され(1498年)、ピエロ・ソデリーニが「正義の旗手」に選出される。ソデリーニ支配下の下、マキアヴェリは第二書記官として、外交折衝を担った。そのため、たびたび他国の君主や行政の長に謁見する機会があった。謁見した君主の一人がローマ教皇アレクサンデル六世の子、チェーザレ・ボルジア(ヴァレンティーノ公)であり、公に理想の君主像を見い出す。また、マキアヴェリは、本人の意思はともかく、反メディチ派と位置づけられた。


自国軍を持たないフィレンツェ、フランス・ミラノ、ローマ教皇領に挟まれ、どっちつかずの煮え切らない態度のソデリーニ。自国軍創設を提唱し、自国軍を組成するが、時すでに遅く、教皇領に屈服する。


1512年ソデリーニが失脚し、ジョヴァンニ・デ・メディチ(後のローマ教皇レオ10世)がフィレンツェの僭主として返り咲くと、マキアヴェリも失脚、山荘に籠もる。そして今までの経験を元に1513年一気に『君主論』を書き上げる。


1515年から1516年の間に、時のフィレンツェの支配者ロレンツォ・デ・メディチ(~1519年、レオ10世の甥)『君主論』を献上する。


1520年、ジュリオ・デ・メディチ(後のローマ教皇クレメンス7世)の元、マキアヴェリも政治の世界に復帰するが、1527年、カール大帝による「ローマ略奪」が起きると、反メディチ派により、再びメディチ家はフィレンツェを追放される。反メディチと目されていたマキアヴェリは、ジュリオ・デ・メディチに付いたことで裏切者とされ、再び失脚、失意のうちに同年没する。


ほかの『君主論』


『君主論』はたくさんの訳本や解説本が出ており、また別の機会に、他の訳本、解説本も読んでみようと思う。


君主論 (講談社学術文庫)
マキアヴェリ
講談社 ( 2004-12-11 )
ISBN: 9784061596894


上記二冊は既に読んだ。『君主論』と言えば、東大総長を務めた佐々木毅氏の訳本のほうが有名らしい。『悪の人心掌握術』のほうは、日本の戦国武将と対比させており、面白い。



最近、塩野七生氏の本の存在を知った。読んでみよう。



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