読書を終えてまず思い知ったのは、我々は風邪についてほとんど何も知らないどころか、誤った解釈さえしてしまっていることだった。タイトルにあるとおり、本書は風邪を科学的に解説し、風邪に対する理解を啓発するために書かれているわけだが、実はそれ以上の重大なテーマを投げかけていた。それはヒトを含めた高等生物の誕生の秘密である。
目次
- 序 風邪の赤裸々な真実
- 第1章 風邪をもとめて
- 第2章 風邪はどれほどうつりやすいか
- 第3章 黴菌
- 第4章 大荒れ
- 第5章 土壌
- 第6章 殺人風邪
- 第7章 風邪を殺すには
- 第8章 ひかぬが勝ち
- 第9章 風邪を擁護する
- 付録 風邪の慰みに
我々は、いろんな策を講じて、風邪にかからぬよう予防策を取っている。ところがその中には、正しいものと誤っているものがあった。
- 正しい予防策:睡眠をよくとること、控えめな飲酒、禁煙、手を洗うこと
- 誤った予防策:暖をとること、免疫力を高めること、サプリメントやビタミンCの摂取
- 知られていない予防策:社会的ネットワーク(多様な人との接触)
なんと、暖をとっても、免疫力を高めても、ビタミンCを多めにとっても効かないとは、びっくりである。なぜ、我々が常識的に信じていた予防策が無効なのだろうか?
それは、我々が、ウイルスというものに対しあらぬ誤解をしているからである。本書を読んで私はその答えを知ってしまったわけだが、ここでブログ読者が答えを知ってしまうと本書を読む楽しみが減ってしまうので、答えを書くことは控えたい。
さて、冒頭に述べた「ヒトを含めた高等生物の誕生の秘密」。ヒトの身体には、大腸菌やらなんとか菌やら、何兆個もの微生物が棲んでいる。我々は、自分の身体は自分のモノと認識しているが、その認識は間違っていたかもしれない。
ヒトは独立した一個の生き物というよりは、その大半が無害である微生物が何兆個も集まった一つの生態系のようなものである。
なるほど、我々は微生物たちの生態系だったのか。しかし、これらの微生物は、いつから我々の身体に宿しているのだろうか?これらの微生物は、高等生物が誕生する以前から地球上に存在していた。人類に進化するはるか以前から、ウイルスは体内に棲んでいた。ここ十数年の科学の進展により、我々のDNAは急速に解明されてきた。そして、我々のDNAの多くがウイルス感染によって得られてきたことも判明してきた。
かつてウイルスはどれも単なる遺伝的寄生体であり、病気を運んでくる微小な構造体であると考えられた。しかし現在では、ウィルスは私たち人間をはじめとする生命の誕生にきわめて創造的な役割を果たしてきたというのである。(中略) 私たちのDNAの多くはウイルス感染によって得られたものだ。
我々の身体は、風邪ウイルスの体内侵入に対し、くしゃみや咳といった身体反応によってウイルスを身体の外に追い出そうとする。しかし、既に体内に棲んでいる細菌たちと同じように、長い人類の進化の過程で風邪ウイルスもいづれ体内に取り込まれ、共存する時代が来るのかもしれない。本書を通じて、風邪を正しく理解するのみならず、人類進化の神秘の過程に迫ることができた。
なお、本書は成毛眞氏の主催する本のキュレーター勉強会の課題図書ということもあり、読むことにした。本を読むに当って、また、当ブログ記事を書くに当って影響を受けるといけないので、他の人の書評は一切読んでいない。
コメント
コメント一覧 (1)
ほかの方の書評を全部目を通した。
高等生物誕生の秘密、人類進化の過程について言及しているのは、私だけだった。意外だった。
「独自の視点」を持つことに意識して書評を書くことにしている。『かぜの科学』は「独自の視点」で述べることができた。