新しい世界史へ――地球市民のための構想 (岩波新書)新しい世界史へ――地球市民のための構想 (岩波新書)
著者:羽田 正
岩波書店(2011-11-19)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

新しい歴史?

歴史教育とはいったい誰のためにあるのか?本書における「新しい世界史」においては、副題にあるとおり「地球市民」のためである。では、その「新しい世界史」とはなにか?


タイトルに釣られて本書を読んでみたわけだが、実はその答えはまだ存在していなかった。『新しい世界史へ』というタイトルにあるとおり、これから「新しい世界史」を作っていくための提言の書である。


なぜ、「新しい世界史」が必要なのか?現在の「世界史」の何が問題で、どのように「新しい世界史」を作っていくのか?それが本書のテーマである。


国民の思想形成のための歴史

歴史学は、それぞれの国民国家が成立していく過程で、国家が国民の思想形成を行うために作った学問である。たとえば、戦前日本においては、日本を対象とする国史、追いつき追い越す対象であった西洋の西洋史、日本が教え導く対象であった東洋の東洋史という枠組みから構成される。


それが、戦後、中高教育では、西洋史・東洋史が廃止され「世界史」となるが、個別の歴史の集約に過ぎず、多少の改善をしつつ現在に至るが、いまだヨーロッパ中心に描かれている(なお、大学では、西洋史・東洋史は分離されたままで、著者は、もともと東洋史(イスラム史)の専門である。)


国民の思想形成を行うための学問であるがために、国が違えば、教えている歴史の内容が異なる。本書では、フランスの歴史教科書の目次、中国の世界史教科書の目次を提示している。フランスでは、東洋のことはほとんど教えられていない。中学では世界史を含む社会科を履修している日本では、中国の王朝名やフランス革命のことは、多くの人が知っているだろう。


「事実」というよりも「認識」

しかし、フランスの教科書には、ほとんど東洋のことは触れられていない。日本についての初見は明治維新や日露戦争であり、フランス人にとって、明治維新前の日本の歴史は存在しない。


あらためて考えさせられたのは、我々が「歴史」だと思っているものは、実は「事実」というよりも「認識」でしかないことである。国が違えば、認識が違う。隣国との間でたびたび「歴史認識」が問題となるが、学んでいる内容が全くことなるので、共通の歴史認識を持つことは難しい。


地球レベルの課題解決に向けて

冷戦が終結して20年。グローバル化は進展し、イデオロギー対立の問題は減少したとはいえ、貧困問題、テロ問題、環境問題、エネルギー問題等、一国では解決できない地球レベルの課題は山積みである。


さきに触れたとおり、歴史学は、国家が国民をリードするために作られた。しかし、現在の世界史は、これら世界の課題をリードしていない。個別の国家視点の「世界史」ではなく、これからの世界をリードする「地球市民」のための世界史が必要ではないだろうか?それが本書の提言である。


「新しい歴史」は作れるのか?

しかし・・・おっしゃることはよく分かるのだが、イデオロギー対立や宗教対立が存在する世界で、いったいどのように普遍的な歴史認識を持つことができるのであろうか。著者ご本人も言われている通り、極めて難しい課題である。


さいわい、日本は、徳川光圀が編纂した『大日本史』のように、国民国家形成前から歴史学が存在し、歴史学の長いルーツがあること、明治時代後も、西洋史や東洋史に取り組んできた経緯もあり、「新しい世界史」を作る上で、イニシアチブを取れる位置にあるように感じる。


<目次>

はじめに

序章 歴史の力

第一章 世界史の歴史をたどる

 1 現代日本の世界史

 2 戦前日本の歴史認識

 3 世界史の誕生

 4 日本国民の世界史

第二章 いまの世界史のどこが問題か

 1 それぞれの世界史

 2 現状を追認する世界史

 3 ヨーロッパ中心史観

第三章 新しい世界史への道

 1 新しい世界史の魅力

 2 ヨーロッパ中心史観を超える

 3 他の中心史観も超える

 4 中心と辺縁

 5 関係性と相関性の発見

第四章 新しい世界史の構想

 1 新しい世界史のために

 2 三つの方法

 3 世界の見取り図を描く

 4 時系列史にこだわらない

 5 横につなぐ歴史を意識する

 6 新しい解釈へ

終章 近代知の刷新

あとがき


関連リンク

書評読み比べ

お二人から、同著者の『東インド会社とアジアの海 (興亡の世界史)』の推薦があったので、合わせてチェックしておきたい。


関連書籍

銃・病原菌・鉄 上下巻セット銃・病原菌・鉄 上下巻セット
著者:ジャレド ダイアモンド
草思社(2010-12-10)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

本書では「ヨーロッパ中心史観を脱していない」として批判の対象となっているが、穀物栽培や家畜、またそれにまつわる病原菌はどのように世界へ伝播していったか、という、世界レベルで考える良書である。旧来の世界史と比較すれば、「少しだけ新しい世界史」と言えるだろうか?


ほかにも「少しだけ新しい」と思われる横につなぐ世界史の本を列挙しておく。


沈没船が教える世界史 (メディアファクトリー新書)沈没船が教える世界史 (メディアファクトリー新書)
著者:ランドール・ササキ
メディアファクトリー(2010-12-21)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

書評記事はこちら・・・[読書]『沈没船が教える世界史』-現代に蘇る大航海時代


チョコレートの世界史―近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石 (中公新書 2088)チョコレートの世界史―近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石 (中公新書 2088)
著者:武田 尚子
中公新書(2010-12)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

気になって読めていないのだけど、これも横につなぐ世界史。もっとも『新しい世界史へ』の著者に言わせると「ヨーロッパ中心史観」となるのだが。


砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)
著者:川北 稔
岩波書店(1996-07-22)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

横につなぐ世界史の原点となる本らしい。『新しい世界史へ』でも触れられている。イギリスの覇権の成立は、綿織物と砂糖がもたらしたとのことで、イギリスの覇権の歴史を理解するには、抑えておきたいところか。



ポチっとお願いします
↓↓↓↓↓↓
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ