日露戦争から太平洋戦争への転落の道


日露戦争で輝かしい頂点に立った日本が、なぜ一五年戦争・太平洋戦争への転落の道を歩んだのか、我々日本人にはその総括が一体できているのか、戦後、高度経済成長を遂げた日本が、なぜバブル崩壊後、20年間も苦しんでいるのか?ひょっとして戦争の総括を怠ったため、学習できていないのではないか?であればこそ、日露戦争から太平洋戦争への転落の道を再度見直すべきではないか?というのが、本書のテーマである。日露戦争の象徴的な成功、そして太平洋戦争の象徴的なつまづきが、それぞれ秋山好古が指揮した奉天会戦であり、辻政信が失敗したノモンハン事件である。


この10年間、日本は変われなかったのか?


本書は2002年に出版された本の再版である。2002年時点で、次の10年間の日本の針路を誤らぬための提言書であったはずが、残念ながら2002年からの10年間、日露戦争から太平洋戦争への転落と同じ道を歩んでしまっている。


日本の2つの過ち


いったい、何を総括すべきか?戦争へ至った原因として、日本における軍国主義の台頭、その前提となる統帥権干犯問題、政治の失敗、世界大恐慌などが挙げられるが、本書では、それらは本質的な原因ではないと言う。本書で挙げる本質的な理由とは、「ジェネラリストの消失」と「組織自己改革力の消失」の2点である。


ジェネラリストであった明治の元勲たち


日露戦争を勝利へと導いた明治の元勲たちは、明治維新を勝ち抜いた者たちであり、生まれは武士で中国の古典(諸子百家や三国志など)などを修めた者たちであった。教養を身につけたジェネラリストであった。ジェネラリストであるゆえに大局的なものの見方ができた。一方で、太平洋戦争をリードした者たちは、スペシャリストであった。富国強兵のため、陸軍、海軍それぞれ細分化された専門家を育てる必要があった。たとえば『坂の上の雲』の秋山兄弟がよい例である。日露戦争時点は、薩長の長老達が存命で、スペシャリスト集団を大局的にリードすることができた。そんな最後のジェネラリストが、本書では原敬だと言う。


大局的なジェネラリストがスペシャリストの突出を抑えた


昭和に入り、スペシャリスト集団である軍隊を抑えるジェネラリストが存在しなかった。なぜ、関東軍は中央政府の意に反して、満州で勝手な軍事行動ができたのか?それが統帥権干犯問題である。明治憲法において、軍隊の統帥権は天皇自身にあり、内閣は埒外であった。しかし、この状況は満州事変当時も日露戦争当時も同じである。異なっていたのは、日露戦争ではジェネラリストたちが存命であったため、大局的なものの見方ができた。天皇に助言を与え、軍隊の暴走を抑えることもできた。


我々日本人が気をつけるべきこと:自己改革力


一方、組織の自己改革力について、ドイツ人・メッケルが日本陸軍の教授となったのは1885年のことだが、メッケルはすでに、日本人組織の自己改革力の欠如を指摘していたとのことである。自己改革力の欠如は、日本人のDNAに埋め込まれてしまっているのかもしれない。本書では詳しく触れられていないが、島国であり単一民族としての歴史が長く、異民族に蹂躙された経験がないことが原因なのかもしれない。この自己改革力の欠如については、本書を読んでも釈然としない。我々日本人は、組織の自己改革についてよくよく気をつけておくべきなのかもしれない。


必要とされる戦争の総括


ノモンハン事件では、責任者・辻政信の処分を曖昧にしたことにより、この事件から学習する機会を逸してしまった。そして、オリンパスの企業不祥事等に見られるように、我々日本人はいまだ太平洋戦争の失敗の総括ができていないのではないだろうか?


本書の優れている点は、自虐史観にも愛国的思想にも属さない中立な立場で著していることである。戦争の総括にはより詳細な分析が必要だが、その入門書と位置づけられる。本書は短時間で読むことができることもあり、ぜひ多くの方に一読願いたい。なお、本書を見つけたきっかけは、日経ビジネスの記事である。


<目次>

  • 文庫版はしがき
  • 第一部
    • はじめに
    • 第一章 二十世紀前半の日本へのたびの準備
    • 第二章 奉天からノモンハンへ
      • ジェネラリストが消えるとき
      • 組織が自己改革力を失うとき
    • 第三章 現在への視座
      • 「政か官か」からの脱却
      • 改革の時代の世代論
    • あとがきー旅を終えて

  • 第二部
    • 日本軍の情報マネジメント、そして「現在」
    • 原敬ージェネラリストの巨星
    • 「生真面目な昭和」から何を学ぶか(対談/福田和也)
    • 日露戦争後の日本、バブル後のニッポン(鼎談/秦郁彦・寺島実郎)
  • 文庫版あとがき


関連書籍

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)
戸部 良一, 寺本 義也, 鎌田 伸一,
杉之尾 孝生, 村井 友秀, 野中 郁次郎
中央公論社 ( 1991-08 )
ISBN: 9784122018334


『転落の歴史に何を見るか』でもたびたび引用される、日本軍の失敗の本質を分析した書である。本書は6つの作戦の失敗を取り上げ、日本軍の本質的な失敗の要因を分析している。『転落の歴史に何を見るか』を読み終わり、さらに本質を理解したい方にはお薦めである。


失敗した6つの作戦

  • ノモンハン事件
  • ミッドウェー作戦
  • ガダルカナル作戦
  • インパール作戦
  • レイテ海戦
  • 沖縄戦

失敗要因

戦略上の失敗

  • あいまいな戦略目的
  • 短期決戦の戦略思考
  • 主観的で「帰納的」な戦略策定ー空気の支配
  • 狭くて進化のない戦略オプション
  • アンバランスな戦闘技術体系

組織上の失敗要因分析

  • 人的ネットワーク偏重の組織構造
  • 属人的な組織の統合
  • 学習を軽視した組織
  • プロセスや動機を重視した評価


追記(2017年8月3日)


本書の著者である齋藤健衆議院議員が第3次安倍第3次改造内閣の農林水産大臣に抜擢されました。




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