メディア消費は時間消費
私はスマホを使いません。厳密には、先月まで使える環境にあったのですが、持ち歩いて使うことはありませんでした。先月、もともと破損していた液晶がついにはブラックアウトし、使えなくなりました。
毎日山手線を使っていますが、山手線の7人がけシートに座っている人を見れば、だいたい7人中4人がスマホをいじり、2人がゲームに興じ、残り2人はLINEかFacebookをいじっている、というのがおよそ平均的な光景ではないでしょうか?
メディア消費・情報消費は時間消費です。テレビも新聞も本もインターネットも同じです。同じ時間をより有効な消費に使いたい、それが私がスマホを持たない理由のひとつです。通勤時間は私の読書時間です。ほかのことで時間を浪費したくありません。
生活の質は向上したのだろうか?
1990年代後半にインターネットが普及し、我々は新たなメディアを手に入れました。当時もネット中毒が問題になりました。携帯電話の普及も、『ケータイを持ったサル』で揶揄されたように、ケータイ中毒が問題になりました。従来の携帯電話より一段と大きくなったスクリーンでは、常時インターネットに接続可能で、人々はどこにいても、スクリーンに固着するようになりました。
常時インターネットに接続できるというのは便利であり、生活の質を向上させます。しかし、上で述べた私が電車の中で見ているような光景が、はたして生活の質の向上でしょうか?
『不格好経営』は評価できない
世評と違い、私は本書と南場智子さんを評価しません。本書を読めば、南場さんの志や社会的使命感が分かるかもしれないと期待したのですが、その期待は裏切られました。
オークションサイトへの熱き思いをソネット社長に語ったことから創業に至った経緯は分かります。DeNAが成功したのは、モバイルシフト、ソーシャルゲームへのシフトのタイミングを逃さなかったからだ、という説明も頷けます。しかし、携帯電話やスマホ、ソーシャルゲームによって、人々の生活をどのように向上させるのだろうか?とか、どのように社会をよりよくしていくのか?という姿勢が、南場さんにはまったく見られませんでした。
これまでもさまざまな経営者の自伝・伝記を読みましたが、自身の事業への志が語られていない点で、本書は失敗作あり、南場さんは起業家として失格です。
娯楽ってなんだろう?
私は有料課金のアイテムを買ってまで、ゲームをやりたいと思いません。ソーシャルゲームというのは、とどのつまり、パチンコや競馬と同じく、ギャンブルの高い娯楽です。この世に娯楽が必要なことは否定しません。娯楽産業は社会の円滑剤、活性剤です。個人的には、経済浮揚策としてのカジノを日本でもやるべきだと思っています。
パチンコ・競馬・カジノは、大人の嗜みです。場所は制限され、年齢も制限される限りにおいて、楽しむことができます。
しかし、ソーシャルゲームは、ギャンブルを世に放ちました。場所の制限もなければ年齢制限も不十分です。通勤電車の中で日々勤しみ、子ども同士が競い合う状況に至っています。
南場さん、そしてDeNAに問いたいのは、ソーシャルゲームの節度ある発展をどのように考えているかです。
企業の社会的使命とはなんだろうか?
私は2つの学校でそれぞれPTAの役員と委員を務めています。IT企業に勤めている私には少々驚きだったのですが、PTAはソーシャルゲームやスマホの普及に困惑し、どちらかというとネガティブに見ています。南場さんには子どもがいません。本書を読む限り、南場さんにはそんな子どもを持つ親の気持ちがわからないように見受けられます。
タバコは年齢認証制度を導入しました。なぜ、いまだにソーシャルゲームは年齢認証制度や有料課金制限の制度がないのでしょうか?iPhoneやAndroidにその仕組みがないから?とよく言われますが、それは言い訳に過ぎないのではありませんか?
自動車会社であれば、環境技術や安全性に莫大な投資をしています。安全かつ環境にやさしい自動車を開発することが自動車会社の使命だと考えているからです。
ソーシャルゲームが健全に発展していく仕組みを作っていくことは、ソーシャルゲームを生業としている企業の使命です。AppleやGoogleのせいにしていないで、自らがその使命に先鞭をつける気概があってしかるべきです。南場さんの気概・志が書かれていることを期待し、『不格好経営』を読みましたが、結果はハズレです。
ソーシャルゲーム企業が、自らの社会的使命を果たさなければ、私も、我が家の子どもたちも、スマホを使うことはありません。
起業家の自伝・伝記
志がないと私は南場さんをばさっと斬り捨てました。では志のある起業家ってどんな人たちだろう?そうふと考えると、これまでに読んでお勧めの起業家の自伝・伝記を紹介します。
ソニー創業者の井深大氏。スティーブ・ジョブズを上回る起業家はこの人をおいてないと思います。
「オレが欲しいものは世界中の人も欲しがる」。
『井深大 自由闊達にして愉快なる―私の履歴書』の読書メモ
ザッポスは、まるでかつての日本企業を彷彿とさせる会社です。トニー・シェイ、本書出版時点で36歳。まるで解脱したかのごとく精神世界を持っているように見えます。
レイ・A. クロック, ロバート アンダーソン, 野地 秩嘉, 孫 正義, 柳井 正
プレジデント社 ( 2007-01 )
ISBN: 9784833418454
マクドナルド創業者、レイ・クロック。「未熟でいるうちは成長できる。成熟した途端、腐敗が始まる。」この言葉がグサリと心に突き刺さります。
ブログ記事:[読書]『成功はゴミ箱の中に レイ・クロック自伝』ー常に成長を目指す姿勢
未来工業創業者、山田昭男氏。このおじさん、ごっつうおもしろい。
19世紀の起業家列伝とも言うべき本。カーネギー、ヴァンダービルド、JPモルガン、エジソン、ベルらが登場。ペテン、詐欺、魑魅魍魎の世界で、アメリカのダイナミズムのルーツが見えてきます。この本はもっと読まれるべきなのに、Amazonでは私のレビューしかありません。
コメント
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僕もやはり事業は志あってのものだと思ってます。