<目次>
- 5年生もくじ
- 飴だま 新美南吉
- ブレーメンの町の音楽隊 グリム童話 高橋健二訳
- とうちゃんの凧 長崎源之助
- トゥーチカと飴 佐藤雅彦
- 大造じいさんとガン 椋鳩十
- 注文の多い料理店 宮沢賢治
- わらぐつのなかの神様 杉みき子
- 世界じゅうの海が まざあ・ぐうす 北原白秋訳
- 雪 三好達治
- 素朴な琴 八木重吉
- 6年生もくじ
- 海のいのち 立松和平
- 仙人 芥川龍之介
- やまなし 宮沢賢治
- 変身したミンミンゼミ 河合雅雄
- ヒロシマの歌 今西祐行
- 柿山伏 狂言
- 字のない葉書 向田邦子
- きつねの窓 安房直子
- ロシアパン 高橋正亮
- 初めての魚釣り 阿部夏丸
国語の教科書も、小学生の高学年になってくると、問うことが高度になってきているようです。問いに対する答えは一つではありません。
『ブレーメンの町の音楽隊』、『大造じいさんとガン』、『注文の多い料理店』、『わらぐつのなかの神様』、『やまなし』などはすでに知っている話ですのでコメントは差し控え、初見と思えてかつ興味を引いたのが、『変身したミンミンゼミ』、『ヒロシマの歌』、『ロシアパン』です。
『変身したミンミンゼミ』
初出は1991年に出版された『小さな博物誌』ということで、私が小学生のころにはなかった話です。セミは夜から明け方のうちに孵化するため、通常は孵化のシーンを見ることができません。二人の兄弟が、セミの蛹を捕まえ、家に持ち帰って孵化の様子を観察しようと挑戦します。狙うのは、たくさんいるアブラゼミではなく、透き通った羽が美しい希少なミンミンゼミです。そしてついに羽化を目撃するのだけど、透明だったと思っていた羽が見る見るうちに茶色になっていきます。アブラゼミも孵化直後は羽が透明だったのです!
子どものころにこんな体験をしたら、すごい発見をしたと思うに違いありません。子どもに未知なるものへの好奇心を掻き立てる良作といえます。
『ヒロシマの歌』
初出は1960年です。原爆投下の翌日、主人公の水兵は広島に行き、死に絶えそうな母と赤子に遭遇します。赤子を引きとると母な亡くなってしまいます。しかし連隊に戻らないといけない水兵は、近くを通りかかったリヤカーを引いていた夫婦に赤子を託します。
それから7年。ラジオ放送で尋ね人の呼びかけをきき、主人公はあの赤子を引き取っていった人が自分を探していると気づきます。手紙のやり取りを通じて、夫はなくなり妻一人で子どもを育てている事情が分かります。妻は子どもを手放したいという気持ちでゆらいでいました。そして子どもを連れて主人公と広島での再会を果たします。子どもはひろ子と名づけられていました。亡くなったお母さんの話を聞いたことで、新しいお母さんはひろ子をそのまま育てる決心をします。さらに時が過ぎ、ひろ子が中学卒業時の15歳になった時、主人公はひろ子に真実を話します。
戦争の話ですが、非常に感動する内容です。小学六年生になれば、この話を読めば、心が揺らぐでしょう。
『ロシアパン』
この話は著者の実体験でしょうか。著者の高橋正亮は1912年生れ。主人公は小学五年生。もし著者のことだとすると1923年のことになります。当時、ロシア革命後の混乱とソビエト連邦の成立により、ロシア政府の関係者やブルジョア階級は、ロシアから亡命を余儀なくされていたはずです。そして、主人公の隣にロシア人が引っ越してきました。食うのにも困っているロシア人はパンを作り、売ります。最初は地域住民はロシア人を怪しんでいましたが、やがて打ち解けていきます。しかし、満州事変が起こり、日本とソ連との対立も激しくなると、ロシア人一家はスパイと疑われ、パンがだんだん売れなくなり、追われるように街を去って行ってしまいました。
そういえば、谷崎潤一郎の『細雪』にも、ロシア人が出てきます。当時、ロシア人の亡命者が日本にかなりいたのかもしれません。かつて、異民族を憎しみ、戦争をした時代がありました。この話を読むことで、小学六年生の子どもたちは何を感じるのでしょうか?
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