<目次>
- Virtu 7 対岸II
- Virtu 8 支配者
- Virtu 9 ヴァティカンの魔物
- Virtu 10 神曲
- Virtu 11 神に選ばれし者
- Virtu 12 光と闇
- Virtu 13 プリマヴェッラ
- Virtu 14 巨匠(マエストロ)
思いのほか非常に面白いので、第1巻に続き、第2巻についても書きます。第1巻は、歴史的背景、人物名、勢力図を理解するのに精いっぱいでしたが、だいたいそれらが頭に入ったので、第2巻は多少すんなり読めました。時代設定は1491年。チャーザレ・ボルジア(1475-1507年)16歳の時です(史実では2年後の1493年に18歳で枢機卿になる)。
第2巻のハイライトすべき点は2点。チャーザレ・ボルジアの権謀術数と他の歴史上人物との遭遇です。
参考情報
チャーザレ・ボルジアの権謀術数
現教皇インノケンティウス8世が病床にあり、次期教皇選挙の競争が激しさを増します。枢機卿が選挙権を持ち、投票により教皇を選出するとのこと。有力候補は、チャーザレの父ロドリーゴ・ボルジア(1431-1503)、敵対するジュリアーノ・デッラ・ローヴェレ(1443-1513)、そしてルドヴィーコ・スフォルツァ。チャーザレ・ボルジア(&ロドリーゴ)は権謀術数を駆使し、ローヴェレ配下のラファエーレ・リア―リオの買収に成功。またロレンツォ・デ・メディチにも恩を売り、支持を取り付けます。
一方自身は、親族登用主義の疑いをかけられることを避け(隣韓国の朴槿恵大統領が陥った)、水面下で調略活動を続けます。それでいて、学問も優秀、人望も厚く、人間的魅力に優れた人物です。後にチャーザレをモデルに『君主論』を表すニッコロ・マキャヴェッリ(1469-1527)が青年貴族チャーザレに陶酔した理由も分かってきました。
歴史上人物との遭遇
クリストファー・コロンブス(1451-1506年)
まずはクリストファー・コロンブス。イタリア出身ながらスペイン王の支援を取り付け、大西洋を西へ行く航海に出向きます。彼が西インド諸島に到達したのは1492年。本書の舞台の1年後なんですね。スペイン出身の貴族であったチャーザレも、コロンブスと面識があったことでしょう。
サンドロ・ボッティチェッリ(1445-1510年)
本人は登場しませんが、ロレンツォ・デ・メディチのローマ邸宅で、ボッティチェッリの絵画『プリマヴェッラ』が披露され、チャーザレも鑑賞します。
なお、ボッティチェッリは東京都美術館で展覧会実施中です(~4月3日)。
レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519年)
そして、ルネッサンスの三大巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチ。ミラノからフィレンツェに帰還しました。彼は軍略家でもあったようで、後にチャーザレに軍略地図(?)を献上したようです。ダ・ヴィンチが『最後の晩餐』を描いたのが1498年、『モナ・リザ』を描いたのが1503年のことでした。
「点」と「点」が結ばれて「線」になる
本書を読んで良かったなと思ったのが、それぞれの事象や人物を「点」として暗記していたに過ぎなかった歴史が、点と点が「線」で結ばれ、リアリティのある歴史としてふわっと浮かび上がってきたことです。
もちろん、NHK大河ドラマと同様、本書もまた史実を踏まえながらも脚色が施されているため、すべてが史実というわけではありません。しかし、中世の教会という権威の呪縛から離れ近世へと脱皮しようとしているヨーロッパをダンテの『神曲』に見出し、その体現者としてチャーザレ・ボルジアを表現しようとする本書著者・惣領冬実氏の試みは称賛に価するのではないでしょうか?
あとがきに書かれていましたが、チャーザレ・ボルジアの人物像は、日本語の文献はほとんどなかったとのこと。惣領氏は、イタリア語の文献を当り、人物像を描き出したとのことです。
つづく(かもしれない)
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