総理
山口 敬之
幻冬舎 ( 2016-06-09 )
ISBN: 9784344029606

<目次>
  • まえがき
  • 第1章 首相辞任のスクープ
  • 第2章 再出馬の決断 - 盟友の死、震災、軍師・菅義偉
  • 第3章 消費税をめぐる攻防 - 麻生太郎との真剣勝負
  • 第4章 安倍外交 - オバマを追い詰めた安倍の意地
  • 第5章 新宰相論 - 安倍を倒すのは誰か
  • あとがきにかえて


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【書評】『総理』その1:転向・暴露・ジャーナリスト : なおきのブログ


インテリジェンス

書評その1の続きです。なぜ安倍政権支持に転向したのかについて説明すると、一言で申せば「インテリジェンスがある」からです。対比すれば、その前の民主党政権に「インテリジェンスがなかった」ということです。本書には、他のメディアでは取り上げられることのない安倍政権の内政面・外交面での水面下の情報収集・情報分析・かけひき・交渉がふんだんに書かれています。恐ろしいほどの内情暴露です。


  • 内政面
    1. 2007年9月、第一次安倍内閣の辞任をスクープ
    2. 2014年11月、消費税10%引き上げ延期の是非を問うために衆議院解散
  • 外交面
    1. 2013年9月、シリア非難共同声明の前段階で、米国政府に対しシリアが犯人であるとする証拠の開示を要求、スーザン・ライス大統領補佐官の顔に泥を塗る。
    2. 2013年12月、バイデン副大統領の参拝見送り要請を無視して、安倍首相は靖国神社参拝を断行。
    3. 2015年4月、アメリカ上下両院合同会議での演説を実施、硫黄島での激戦を乗り越えた平和に向けた強いメッセージでスタンディングオベーションが起きる。


安倍政権の交渉カード

ライスとバイデンの顔に泥を塗りましたが、そのことが尾を引くどころか、アメリカ上下両院合同会議での演説に至り、劇的に日米関係が改善します。安倍政権が切った交渉カードは、以下の通りです。


  1. 民主党政権でとん挫した普天間基地移転の続行
  2. 防衛費予算の増加
  3. オバマ大統領が強いこだわりを持っていたハーグ条約(国際結婚が破たんした時の子の国籍の取り扱いに関する条約)批准
  4. 米国NSCのカウンターとなる国家安全保障会議の設置


水面下での外交交渉

これを為し得たのは、多面的な「外交」です。駐米大使・公使や外務事務次官等が、水面下で情報収集・情報分析・かけひき・交渉を行っていたからです。著者は2010年よりワシントン特派員として駐在し、これら官僚とも交わり、水面下の交渉過程を目撃しています。外務官僚が積み上げて来た多面的な人間関係・情報収集能力を駆使した成果です。


これを、民主党政権と比較してみて下さい。官僚をバカにし、官僚が持っている情報を使わず、相手の腹もさぐらず、いきなり交渉カードを切ってしまいました。鳩山由紀夫の普天間県外移転発言など最たる例です。県外移転のカードを切るなら、少なくとも官僚にそのシミュレーションを指示しておかなければなりませんでした。アウトプットが何も出せないのは、指示がなかった証拠です。


官僚の力を引き出す

官僚の水面下の努力は決して報道されることがありません。しかし、安倍外交の成果は、官僚の成果です。彼らが心の中でガッツポーズを取っている姿が本書を読むと浮かび上がります。


政権がインテリジェンスを発揮するには、官僚の力を最大限引き出すことが必要です。民主党と自民党安倍政権の差は、官僚をリスペクトし、動機づけできたか否かの差です。「霞が関は大馬鹿」と啖呵を切った民主党政権に、官僚が協力するはずがありません。


以上、本書で書かれている内容と評価です。以下は、本書執筆後の出来事を、本書になぞらえて分析してみました。


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本書執筆後の出来事

本書執筆後の行動を見ても、同じ安倍政権のインテリジェンス、水面下の外交交渉が光ります。オバマ大統領広島訪問(2016年5月)、安倍首相パールハーバー訪問(2016年12月)においても、外務官僚たちの水面下のかけひきがあったであろうことは容易に想像できます。


ドナルド・トランプ

さらに、ドナルド・トランプ大統領との駆け引きについても同じことが言えます。前評判をひっくり返し、11月9日にトランプが大統領選に勝利するや否や、11月18日には安倍首相はトランプとの面会を実施します。そこでゴルフ・クラブをプレゼントし、2月のゴルフプレー実現へとつなげました。


さて、ビジネスで駆け引きをしたことのある人なら分かるはずです。11月18日の電撃訪問が用意周到に準備されていたことを。恐らく、11月9日以前に、水面下でトランプのスケジュールの空き状況を確認していたでしょうし、安倍首相も訪問に備え、スケジュールを空けていたでしょう。ゴルフをすれば親密な関係を作れることを分かった上で、11月18日にゴルフ・クラブをプレゼントしたのでしょう。もちろん、どちらが勝つか分からない状況です。同じプロファイリング、シミュレーションは、ヒラリー・クリントンに対しても練っていたはずです。


追記(2017年10月21日)

このことは著者の次著で明らかにされました。


対等の日米関係

本書を読むと、安倍政権で実際に外交関係で起きていることの水面下の交渉・舞台裏がよくわかります。対米追随外交とか対米従属外交という批判が、全くの的外れであることが分かります。



こんなことを言っている民進党に絶対政権を渡してはいけません。


オバマに対してもトランプに対しても、イニシアチブを取っているのは安倍晋三です。戦後70年にして、日米関係を対等の関係に引き上げました。一時期は沖縄撤退を口にしたトランプに、沖縄に米軍を置かせてもらって感謝するとまで言わせることができました。もし、民進党が政権を取っていたらと思うと、ぞっとしませんか?


戦後レジームからの脱却、そして・・・

第一次安倍内閣でスローガンに挙げていたのは「戦後レジームからの脱却」でした。この言葉は、2012年以降の二度目の安倍内閣では聞かれなくなりましたが、こうしてこの5年を俯瞰すると、着実にその成果が出ているように見えます。一度目の政権にあった口先だけで実行力の伴わなかった青臭さがなくなり、不言実行の成熟した政権運営が光ります。


彼の本丸は「憲法改正」です。日本を取り巻く外交関係は、北朝鮮問題、韓国の慰安婦像問題、中国の海洋覇権問題など、課題山積みです。これらの課題に対しても、水面下の情報収集・情報分析・かけひき・交渉が行われているだろうことが期待できます。これらの課題の進展とともに、「憲法改正」手続きの着手に入るのでしょう。


つづく。


【書評】『総理』その3:腹の探り合い・見直し・どこまでを書くのか・宰相論 : なおきのブログ


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