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本書は、1871年11月から1873年9月まで、米欧に派遣された岩倉使節団の米欧見聞録です。随行した久米邦武が見聞したアメリカ・ヨーロッパのありのままを記したものです。原文は合計100巻2000ページとなる大作で、本書は単に現代語訳にしただけでなく、約400ページ強に「縮訳」したものです。すべてを翻訳することはできませんので、要所要所は余すことなく翻訳するものの、大部分は要約してあります。


これまでデービッド・アトキンソン氏ら知日派外国人が記した日本の見聞録を好んで読むようにしてきました。その理由は、外国人の目を通して日本を再発見するためでした。


本書は、当時のアメリカ・ヨーロッパを再発見するに留まりません。特に第一編のアメリカ合衆国の部は、アメリカと日本の違いを指摘した上で批判的に論じているわけですが、日米の違いの本質は、ひょっとすると今日も変わっていないのではないかという気がします。つまり、日本社会の性質は、150年前からなんら変わっていないということです。150年前のアメリカから、今日の日本社会に対する洞察を得ることができると感じました。


150年前のアメリカから現代の日本を知る

アメリカのインフラによる啓蒙

150年前のアメリカも現代のアメリカも変わりないのは、この国は、アントレプレナーの国だということです。1970年代から80年代にかけて、一瞬日本に負けかけましたが、長期スパンで見れば、アメリカの本質は一貫性が保たれているように感じます。


当時も現代も、アメリカは、産業振興を促すための通商制度や設備、金融制度、特許制度などが充実しています。1870年代の時点でこれらが整備されていたのは驚きです。その後、日本は殖産興業に邁進したのは歴史が示すとおりです。


産業振興を促すために力を入れていたのはそれだけではありません。社会的啓蒙に力を入れていました。久米は、動物園、植物園、博物館、美術館の充実度合いに驚嘆します。アメリカのみならず、後に訪れるイギリスやフランスも同様です。引用します。


西洋の都市にはどこでも植物園と動物園がある。これは、規模の差は別としてわが国に植木屋や鳥獣屋があるのと見たところは似ているが、その本来の目的は全く相反する。西洋でこうした施設を設けるのは、それによって人々に関心をおこさせ、知識を実のあるものにして産業をおこし、学識を普及することを目的としているのであり、莫大な費用を惜しまないのも、それに見合う利益があるからに他ならない。 (P56)


翻って現代の日本。GDPに占める教育への支出比率が欧米諸国と比べて日本は低いと言われています。150年前も現在も変わりません。しかし、曲がりなりにも、日本もそれなりに発展しました。では一体、日本は産業振興を促すために、一体どのような教育を施してきたのでしょうか。


日本の徒弟による啓蒙

ふと、昨年再読した『思考の整理学』のある一説を思い出しました。引用します。


■不幸な逆説

熱心な学習者を迎えた教育機関、昔の塾や道場はどうしたか。
入門しても、すぐ教えるようなことはしない。むしろ、教えるのは拒む。剣の修業をしようと思っている若者に、毎日、薪を割ったり、水をくませたり、ときには子守りまでさせる。なぜ、教えてくれないのか、当然、不満をいだく。これが実は学習意欲を高める役をする。そのことをかつての教育者は心得ていた。あえて教え惜しみをする。
(中略)昔の人は、こうして受動的に流れやすい学習を積極的にすることに成功していた。グライダーを飛行機に転換させる知恵である。
それに比べると、いまの学校は、教える側が積極的でありすぎる。 (P17)


日本には徒弟制度がありました。雑用をこなしながら、一向に教えてもらえないという理不尽さがありました。この理不尽さは、特に戦後は忌み嫌われ、今日に至ります。


ここで私が問題提起したいのは、徒弟制度が理不尽であるからと廃止してしまってよかったのか?という点です。国による啓蒙インフラが不十分な中、徒弟制度があったからこそ日本は発展してこれたのかもしれません。バブル崩壊後、啓蒙インフラが不十分なまま徒弟制度までもが崩壊したことが、日本の失われた20年の原因とは考えられないでしょうか。


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行政と商業の関係

150年前と現代の類似性は、行政と商業の関係にも言えます。行政機能も商業機能も一極集中してしまう日本に対し、アメリカは州都と商業都市が別々です。ニューヨーク州の州都はオールバニー、カリフォルニア州の州都はサクラメント、イリノイ州の州都はスプリングフィールド、テキサス州の州都はオースティンです。ニューヨーク市でもロスアンゼルス市でもシカゴ市でもダラス市でもありません。


アメリカでは、行政機能と商業機能がなぜ別々でいられるのか、久米が書き記していました。引用します。


アメリカでは、各州の商業都市は大抵、首府とは別の所にある。首府は政令が発される所であって州の中央を選んで設けられるが、商業都市は物産が出入りする所であるから便の良い港や交通の要所に発達する。自主精神に富んだ市民は政府の税金の出入りを目当てにして繁栄をはかろうなどとはしない。 (P103)


あぁ、そういうことか。そうとは書かれていませんが、この文章は、日本では商人は政府に依存していることを前提にしていると読めます。これは現代にも通じます。とかく、日本企業は本社機能を東京に置きたがります。東京への一極集中は、企業・企業人の政府への依存心が原因と言えそうです。


以上、アメリカ合衆国の部を中心に考察しましたが、全体の約四分の一でしかありません。残りについても、あらためて書き記します。


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目次

  • 序 文
  • 第一編 アメリカ合衆国の部
  • 第一巻 太平洋渡航
  • 第二巻 アメリカ合衆国総説
  • 第三~四巻 サンフランシスコ―最初のアメリカ体験
  • 第五~九巻 大陸横断鉄道の旅
  • 第十巻 コロンビア特別区
  • 第十一~十三巻 ワシントン―条約改正交渉待機の日々
  • 第十四~十六巻 北部巡覧の旅
  • 第十七~二十巻  アメリカ出発まで


岩倉使節団
via 岩倉使節団 - Wikipedia (license : CC0))



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