<目次>
  • はじめに
  • 第1章 好きになったら一直線(1909~1930年)
  • 第2章 ヒットを求めて四苦八苦(1930~1936年)
  • 第3章 急転直下、軍歌の覇王に(1937~1941年)
  • 第4章 戦時最大のヒットメーカー(1941~1945年)
  • 第5章 花開く大衆音楽のよろず屋(1945~1973年)
  • 第6章 経済大国の大門を叩く(1952~1989年)
  • あとがき


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本書を読了したのは4月でしたが、書評を書き損じていましたので、あらためて紹介します。


NHK朝の連続テレビ小説『エール』の主人公古山裕一のモデルとなった古関裕而の伝記書です。朝ドラの主人公になるといことで、同時期にいくつか関連本が出ていますが、その中でこの文春新書版を取りました。


古関裕而。本名は古關勇治。名前を替えたのは、作曲家としてのペンネームだったようです。1909年生れ1989年没。明治から大正・昭和・平成まで生きたことになり、作曲家人生のすべてを昭和で過ごしたことになります。逆の言い方をすれば、昭和時代を通じた代表作曲家は古関裕而ということになります。


あらすじ

呉服店の坊ちゃんとして生まれ、家に蓄音機があったことから音楽に魅せられ、小学生の時分から作曲するようになり、音楽にのめり込むあまり商業学校では留年し、伯父の銀行に入ります。英国の作曲コンクールに応募したところ2位に当選(経済恐慌となったためイギリスへのご褒美旅行は中止)、一躍時の人となり、後の妻となる金子からファンレターをもらい、文通を通じて恋を育み、金子のところに押しかけ、結婚の了承を取り付け、そして伯父の許しも得て、日本コロムビアに作曲家として入社(ドラマでは「コロンブスレコード)。


最初は鳴かず飛ばずでしたが、入社5年目にして『船頭可愛や』でようやくヒット曲を生み出し、その後は快進撃となり、今日でも使われている阪神タイガーズの歌『六甲颪』、早稲田の応援歌『紺碧の空』を作曲します。しかし時世の雲行き妖しく、日中戦争がはじまると、『露営の歌』がヒット、軍歌の覇王と呼ばれるようになり、作詞 野村俊夫、作曲 古関裕而、歌 伊東久男(ドラマではそれぞれ村野鉄男、古山裕一、佐藤久志の福島三羽ガラス)『暁に祈る』をヒットさせます。


以上のエピソードは『エール』そのままです(第15週まで)。ドラマはここまでが本来6月末の前半で、ここから折り返して後半に突入することになります。後半も史実に則って描かれるのだろうと期待します。


時代の写し鏡

流行歌は当時の世相を表します。1937年、日中戦争勃発後に発表された『露営の歌』、1940年4月に公開された映画『暁に祈る』。ドラマでは端折られていましたが、史実では『露営の歌』の作曲直前、古関夫婦は満州を旅しており、『露営の歌』の哀愁漂うメロディに影響を与えたのではないかと言われています。


戦後、古関は軍国主義を増長させたのではないかという批判に苛まれますが、本書著者の辻田氏は、ヒット曲は「企業の営利活動、クリエイターの競争心、消費者の欲望からも生まれてくる」ものであり、時代の写し鏡であったとし、「単に特定の作品や作者を断罪すれば済むものではない。」としています。


『暁に祈る』の歌詞には、出征する夫が妻と子を想う気持ちが綴られています。このような気持ちを抱いて出征したことを思うと、胸にこみ上げてくるものがあります。この気持ちは私だけでなく、YouTubeのコメント欄を見る限り、多くの方にその気持ちを抱かせています。


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『露営の歌』

『暁に祈る』

関連書籍

カズオイシグロの『浮世の画家』


戦前・戦中時に戦意抑揚のポスターを描いた画家が、戦後、筆を折ります。世間のみならず家族からも批判されているのではないかという猜疑心がカズオイシグロ独特のジワジワ感で描写されています。しかし、その猜疑心は結局のところ自意識過剰がもたらしたもので、批判は勘違いだったということが判明し結末します。


古関裕而も同じように、戦後は後ろめたさを感じたのかもしれません。


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