<目次>
  • 第1章 再生する日本
  • 第2章 李登輝の台湾革命
  • 第3章 中国の歴史と「二つの中国」
  • 第4章 尖閣と日台中
  • 第5章 指導者の条件
  • 第6章 「武士道」と「奥の細道」
  • 第7章 これからの世界と日本


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今年の7月30日、台湾民主化の父・李登輝氏が逝去されました。享年97歳。あらためてお悔やみ申し上げます。2014年、91歳に上梓した本書は李登輝氏から日本の遺言メッセージとなります。


李登輝氏の著書を読むのはこれで二度目になります。1923年生れで戦前の日本式の教育を受け、戦後日本と袂を分かったこともあり、李氏の中には「日本精神」が受け継がれています。本書には『学問のすゝめ』『武士道』『奥の細道』、武者小路実篤からの引用が散りばめられ、これらの書により「日本精神」を涵養してきたと伺えます。


生い立ちと台湾民主化の経緯

本書では、李登輝氏自身の生い立ちと台湾民主化の経緯も余すことなく語られています。京都帝国大学への入学、学徒出陣(農業経済学は文系と見なされた)、東京大空襲後の戦場整理活動、台湾帰国と農業研究者への道、農業政策の政府への提言をきっかけに国民党に入党し政権に参加、台湾市長を経て副総統に昇格、蒋経国総統死去に伴い、1988年総統に昇格します。


中華民国は、立国の経緯とその名が表す通り「民主主義」の国です。1947年に憲法を制定するものの、「反攻大陸」を目指す中国国民党は、「動員戡乱時期臨時条款」により合法的に憲法を停止、国政選挙を開かず国民党一党独裁体制を確立しました。


1988年に李登輝氏が総統の位に就くと、1990年に総統選挙を実施して勝利、「動員戡乱時期臨時条款」を廃止して憲法を復活させます。このことにより民主的な選挙への道筋を切り拓き、1996年の総統選挙に自ら出馬・勝利し、民主的な手続きで初めて台湾国政のトップに立ちました。万年議員ら既得権者もおり、一筋縄ではいかなかったはずで、よくぞ民主化の道を切り開いたと思います。


日本人への提言

一言で言えば自虐史観から脱却し、日本人としての誇りを回復せよ、ということになります。戦後に日本が誇りを失った原因はGHQと日教組にあると断罪します。その根源はGHQによる「ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム」(WGIP)としています。WGIPは右派からは存在が支持され、左派からは日本人しか主張者がおらず陰謀論と指摘されていますが、日本人ではない李登輝氏が言及していることは注目に値します。ケント・ギルバート氏もWGIPを批判しており、彼の主張にも耳を傾けたほうがよさそうです。



靖国神社参拝

李登輝氏の兄・李登欽氏(日本名は岩里武則)は、日本軍に参加、戦死しました。慰霊は台湾への凱旋が許されず、今でも靖国神社に眠ります。李登輝氏が戦後日本に訪れたのは2004年まで待たねばなりませんでした。2007年の来日時に靖国神社参拝を果たします。

2000年に総統を退任したものの、いろいろな制約があり、訪日することそのものがなかなか叶わなかったのですが、62年ぶりに仲の良かった兄に会え、やっと冥福を祈ることができたのでホッとした気持ちでした。

我が家にとって、兄の証があるのは靖國神社だけなのです。我が家ができなかった兄の慰霊を、靖國神社がずっとやってきてくれた。長い間、兄の魂を慰めてきてくれた、そのことに心から感謝するためにも私は靖國神社に参らなければならなかったのです。 ー 227ページ


また、2007年の訪日時は、時松尾芭蕉が歩んだ経路をたどり、松島・山形・平泉などを訪ねています。



日本政府への苦言と提言

苦言

本書では日本政府への苦言や提言も述べられています。中国に靡いた民主党政権にはかなり厳しい苦言を呈します。国交がないながらも、東日本大震災の際には日本に支援を送りました。にもかかわらず菅直人政権は支援受入れに消極的になり、結果的に台湾からの支援は日本入りが遅れました。また、諸外国からの支援を受け日本政府は感謝の広告を打ちましたが、広告先から台湾を外しました。


一方で次の安倍政権に対しては肯定的です。政権交代されるや否や、政権交代後わずか5ヶ月で日台漁業協定を締結します。



提言

ところでアメリカには、台湾関係法という法律があります。1979年、アメリカが中華人民共和国(中共)との国交回復・中華民国との国交断絶時に、台湾の安全保障を確保するために制定した法律です。中共による台湾侵略への牽制です。国交がないながらも、台湾の安全保障をアメリカが担保することの表明です。先ごろ、香港自治法が成立しましたが、同様の法律が既に1979年からあるんですね。


翻って日台関係を見ると、先の漁業協定のような個別の経済協定はあるものの、台米関係と比べると日台関係は心もとないです。そこで李登輝氏は日台関係法の制定を提言します。なるほど、私も賛成です。


しかし、日本国内法として日台関係法を制定するのは、一筋縄にはいきません。中共からの横やりも入るだけでなく、国内左派からの反発もあるでしょう。2015年の安保法制時以上に難航するのではないでしょうか?菅義偉政権には用意周到に詰めて行ってほしいものです。


日台関係強化に動く兆しが見えます。安倍前首相の弟である岸信夫氏の防衛大臣への起用です。李登輝氏逝去時の自民党からの弔問団に加わり訪台しています。日台関係の思いの丈を述べており、今後の日台関係強化に期待できます。



今後の日台関係

さて、日本に熱烈な提言・ラブコールを送る李登輝氏ですが、なぜそこまで日本に熱くなるのでしょうか?太平洋戦争終結まで、彼が日本人として生きたのも理由の一つでしょうが、本書読了後に李登輝氏の日本人秘書早川友久氏の以下の記事を読んで気づきました。


台湾にとって日本がなくてはならない存在

「日本は台湾の生命線」と考える李登輝


つまり、安全保障面で日台は相互依存関係にあるから、ということのようです。台湾の安全が脅かされれば即ち日本に類が及び、その逆もまた然りです。日米台の関係を強化することで、中国共産党の侵略行為を堰き止めることができます。


李登輝氏の言葉により、台湾との絆は守らなければならない、と確信するに至りました。李登輝先生にその気づきを得られたことに感謝を申し上げると共に、安らかに眠りをお祈り申し上げます。



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