<目次>
  • はじめに
  • 序章 並べられた子どもたち
  • 第1章 子宮頸がんワクチン問題とは何か
  • 第2章 サイエンスが暴いた捏造
    • 1 名古屋市の調査結果と、メディアの曲解
    • 2 3・16池田班発表の衝撃
    • 3 捏造発覚
  • 第3章 子宮頸がん問題の社会学
    • 1 科学を伝える
    • 2 「ウェイクフィールド事件」と反知性主義
  • 終章 母と子
  • あとがき
  • 子宮頸がんワクチン問題関連年表



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「子宮頸がんワクチン問題」については、これまでも2本の記事を書きました。


子宮頸がん予防ワクチンの安全性検証で村中璃子さんがジョン・マドックス賞が贈られたものの・・・ : なおきのブログ

年頃の娘がいる親として、この状況は看過できません。接種させてよいのかどうか、決断せねばなりません。お子さんのいる私と同世代の方たちも、同様に困惑しているのではないでしょうか?

naokis.doorblog.jp

【書評】『新潮45 2016年 12 月号 薬害でっちあげ』子宮頸がんワクチンの安全性検証に関する村中璃子さんの記事を読む : なおきのブログ

子宮頸がん予防ワクチンの安全性検証でジョン・マドックス賞を受賞した村中璃子さん。彼女の執筆した記事を探したところ、市販本で見つかったのはWedgeと本誌だけでした。ほかに『日本産婦人科医会報』がありますが、こちらは一般入手はできません。ということで、本誌を図書館で入手し、記事を読みました。

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村中璃子さんの著書が出版されたことで、あらためて「子宮頸がんワクチン問題」について論じます。


不十分な科学ジャーナリズム


全体を通じてまず感じたことは、日本の科学ジャーナリズムの未熟さです。欠如と言うほうが正しいかもしれません。欧米との彼我の差を認めざるを得ません。


本業で科学技術論文の業界について調べる機会がありました。その中で分かったことは、業界の方に教えていただいたのですが、日本人が「論文」だと思っているものの多くは、欧米では「論文」としては認められていない事実です。欧米の論文は査読済みのものを指します。ところが日本の論文は、査読を受けない自称論文がほとんどです。査読体制が未整備なのです。


査読をマネジメントするのは、編集・出版の仕事です。仕事として成り立つことが必要です。欧米の査読論文は、STM(Science, Technology and Medical)と呼ばれる民間の出版社が担っています。エルゼビア、ワイリー、『Nature』を発行するシュプリンガーなどです。


ところが、日本にはそのようなSTM出版社がありません。そういう背景もあり、日本では村中さんのような科学ジャーナリストが職業としてほとんど成り立っていない、と感じます。


科学ジャーナリズムの欠如がもたらすもの


それは、論文も書かず、エビデンスも提示しない教授の存在を許していることです。反ワクチン派の旗頭である信州大学元副学長の池田修一教授は、未だエビデンスを提示しないどころか、マスメディアを使って、不当に煽っています。


筆者が、池田修一教授に診断基準を問い合わせると、「私たちが脳障害とした診断根拠等は現在論文にまとめている最中であります」との回答だった。論文にまとめているから答えられないと言うのであれば、なぜメディアがいる成果発表会で公表したのか。(中略)2年近くが経過した今も、池田氏らが脳障害としたとした診断根拠を示す論文は見ない。 (P118)


証明できないのなら、黙っていろ、と思うのですが、黙るどころか自らメディアに露出して不安を煽っています。手口が、反原発運動家と同じですね。


もしも池田氏が保有率と頻度を意図的に混同し、メディアの目をごまかして自説に有利な誤情報を流そうと考えていたのだとしたら悪質と言わざるを得ない。さらに、それが誤った解釈であることが明るみに出た場合でも訂正せず、メディアのせいにできると考えていたのだとしたら、科学者としての資質が問われる。 (P120)

科学者が科学誌への掲載ではなく、メディアへの登場を実績として挙げるのはユニークだ。 (P144)


本当におかしいですね。


国税を預かり命に責任を持つ仕事をする医師のひとりとして、HLA型は「知らなかった」「勘違いだった」、マウス実験は「予備的段階だった」では済まされない。「論文に出したわけではない」「メディアが報じただけ」という弁明も通用しない。 (P148)

関連する学術団体や研究グループは、池田班の研究方針や研究内容の根本的な是正や班長の交代を求めるなど、アカデミアとしての責任を具体的に果たせるのか、アカデミアの自浄能力が問われる正念場である。 (P195)


99%の医師は善意の方だと思いますが、自浄能力が発揮されないことに危機感を感じます。まるで不祥事を起こしている企業のようです。


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ワクチン副反応に用いられる医薬品メーカーとの利益相反


村中さんがWHOや外資系製薬メーカーの回しものだという言説があります。しかし、その証拠がったという証言は見当たりません。一方、池田氏&信州大学は、ワクチン副反応に用いられる医薬品メーカーであるキッセイ薬品工業から寄付を受けています。製薬メーカーとの利益相反があるのは池田氏のほうで、製薬メーカーに有利な証言をしていると受け取られても仕方ないのは、池田氏のほうです。


子宮頸がんワクチン問題は、池田氏引退後の再就職先といった形だけでなく、「研究費」という金銭的な利益とも結びついている。池田氏が責任者を務める神経難病学講座は、子宮頸がんワクチンの副反応とされる症状にも用いられる異役員を製造販売するキッセイ薬品工業株式会社から、2010年4月1日から2015年3月31日までに1億6000万円もの寄付を受けている。同講座は2016年4月1日に更新され、5年間で新たに1億5000蔓延の寄付を受けることが決まった。すなわち、キッセイから池田氏への講座への供与額は合計3億1000万円の巨額に上り、信州大学医学部内の寄付講座における最高額となっている。池田氏自らも「神経治療学」掲載の「子宮頸がんワクチン関連の神経症とその病態」という論文の末尾で、キッセイと利益相反関係にあることを認めている。 (P163)


科学リテラシーの欠如・反知性主義によって増幅


「子宮頸がんワクチン問題」とは何かというと、結局のところ、未熟な科学ジャーナリズムと反知性主義が共鳴して増幅してしまった結果ではないでしょうか?未熟な科学ジャーナリズムの象徴的人物が論文を書かない池田修一教授で、反知性主義の象徴が母親たちと自称「支援者」たちです。


トラウマを抱えた自主避難者などの不安当事者側ではなく支援者側に責任がある問題です。支援者といっても、事態を悪化させている、かぎかっこ付きの「支援者」です。NPO、法律家、自称ジャーナリスト、自称専門家など多様な主体で構成され、共通点は勉強していないことです。

言説を分析すると、放射線に関する知識はほとんど持っていない。にもかかわらず「危ない福島」を前提にしながら、不安には寄り添わなければならない、自分たちは正義だと自己正当化する。原子力ムラならぬ、「不安寄り添いムラ」が形成されています。(中略)「支援者」は不安当事者とある種の共存関係をつくり、得られる限りの利得を得続けていく。

(「Wedge」2016年5月号「放射能・ワクチンへの不安カルト化からママを救うには」) (P224)

子宮頸がんワクチンのせいで娘が体調を崩したという母親たちはSNSを通じて知り合い、「会」を組織した。SNSを使って娘の症状を詳細に発信し、仲間内でフォロワーを増やした。国会や製薬会社に乗り込む母親たちにはカメラや取材のマイクが向けられ、普通の母親たちは特別な母親たちになった。会やSNS上のネットワークは一見、救済や補償を目的としたアクティブな運動体のように見える。しかし、会は母親たちの自己実現の場であり、SNSは学校に行けなくなった孤独な少女たちの大切な居場所でもある。 (P250)


10万個の子宮


1年間に子宮頸がんで命をなくす人が3000人。子宮摘出手術を受けた人を含めると、1年間に失われる子宮は1万。訴訟問題になってしまったため、国が積極的接種を再開するまでに10年かかるとすると、その間に失われる子宮の数が10万です。


予防接種適齢期の娘を2人持つ私にとっては、切実な問題です。予防接種を受けさせるには妻の同意も必要です。マスメディアが機能不全に陥っている以上、本書を読ませ、早急に理解・同意を得なければなりません。


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追記:署名にご協力を。

2018年4月11日

そんなことはないと思うが、もし村中さんが敗訴するようなことがあれば反知性の勝利と日本のアカメディアの死を意味する。

出典:https://twitter.com/naokis/status/983331420817965056


この私のツイートが昨日リツイートされ、アクセス数が急増したのですが、Twitterでの短文言及では言葉不足なので、補足します。


現在、村中さんは池田修一氏らに名誉毀損の訴訟を起こされています。科学的な証拠を提示しない池田氏が法廷の心証だけで村中さんに勝利してしまう可能性があるのに、日本のアカデミアはなぜ黙認しているのでしょう。黙認・放置すれば、日本のアカデミアは科学的実証を放棄したことになります。


村中璃子さんがNature誌からジョン・マドックス賞が贈られたのも、日本のアカデミアへの強い警鐘です。もし、村中さんが敗訴するようなことがあれば、海外のアカデミアは黙っていないでしょうし、日本で危機感を持っている学者たちは日本のアカデミアに失望し、海外流出が加速しかねません。有望な方ほど海外流出するという循環が形成されてしまったら、いよいよ日本のアカデミアは死に至ることになります。


2018年4月11日その2


アクセス急増の理由は、村中さんご自身によるコメント付きRTが原因でした。署名にご協力を。



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