破損したアメリカ国旗

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著者・堤未果さんの新刊が書店に並んでいるのを見ました。私は彼女の本を読んだことがなかったので、おそらく著者を一躍有名にし、著者の原点とも言うべきだろう本書を読むことにしました。


ノンフィクションの読書は二つの目的があると思っています。


  1. 知識を増やす。事実を知る。その知識を役に立てる。
  2. 考え方を増やす。人の考え方を知る。その考え方を役に立てる。


知識や考え方は人によってまちまちです。本を通じて知ることができれば、喜びとなりますし、本を通じて新しい考え方を知ることもまた喜びになります。本書においては、事実を知ることはできましたが、著者の考え方は役に立ちませんでした。


<目次>

プロローグ

第1章 貧困が生み出す肥満国民

第2章 民営化による国内難民と自由化による経済難民

第3章 一度の病気で貧困層に転落する人々

第4章 出口をふさがれる若者たち

第5章 世界中のワーキングプアが支える「民営化された戦争」

エピローグ

初出一覧

あとがき


本書で得られる知識:アメリカの貧困事情


本書において、新しい知識を得ることができました。それは、タイトルにある通り、アメリカの貧困事情です。

  • 生活保護の実態・食料配給の制度(低価格高カロリーのジャンクフード)
  • 異常に高い入院費用(出産費用は$15000!)
  • 異常に高い一人当たりの医療費負担(日本の2.5倍)
  • 無保険者数4700万人
  • 指定病院のみで利用可能なアメリカの医療保険制度(指定外病院での通院は全額自己負担)
  • 高い乳幼児死亡率(1000人中6.3人 vs.日本は1000人中3.9人)
  • 奨学金と引き換えの軍隊への就職
  • 石油プラント建設会社ハリバートン傘下の民間軍事会社


アメリカにMBA留学していた同僚より、アメリカの医療保険代がべらぼうに高い(確か7万円/月)という話は聞いていましたので、本書で述べられているアメリカの貧困事情は事実と受け止めました。


本書から学ばないほうがいい考え方


本書を通じて知識は得られたものの、考え方においては残念でなりません。厳しい言い方をすれば、社会主義者や共産主義者にありがちなミスを犯しています。短絡的なものの見方、ひとつの事象をひとつの原因だけに帰結しようとする考え方です。


<著者の考え方>

  • アメリカでの民営化・自由化が格差拡大・貧困増大に直結している。
  • 特に教育と医療の民営化は貧困を増大させる元凶。
  • 日本はアメリカの後を追おうとしている。
  • だから、民営化・自由化には反対。


<著者が見落としている点>

  • 社会主義者・共産主義者にありがちな生活保護がもたらす勤労意欲の堕落・モラルハザード
  • GMが倒産したのは過度の社会保障負担
  • 日米の低学歴層の勤労モラルの差(日本のほうがモラルが高い)
  • グローバル社会における日本のポジショニングの変化
  • 日本の生産人口の減少
  • 日本の財政赤字の危機
  • アメリカの医療機関・医療保険の高い参入障壁
  • 日本の社会保障費を賄っているのは財政赤字


アメリカの医療費高騰は自由化の結果なのだろうか?


最後の2点について補足します。


まず、アメリカの医療費が高い点について。自由化によって高くなったというのは不可解です。一般的に、自由化されれば競争により価格は下がります。もちろん、サービスの幅も広がり、高価格のサービスも出てきます。もし、アメリカの医療費が高いのなら、その理由は二つあると考えられます。


  • アメリカの医療が自由化されているというのは勘違い。実は参入障壁が高いのかもしれない。
  • アメリカ人の購買力平価は日本人より高いため、より高い医療需要がある。


日本の医療保険はなぜ安いのだろうか?


また、日本の医療保険が安い、と考えるのも早計です。今や、日本政府の一般歳出における55%が社会保障費です。いわば、国債発行で社会保障費を賄っているわけです。財政再建には、社会保障費カットは必然です。


今後、日本の医療費個人負担は間違いなく増えることになるでしょうが、原因は、民営化や自由化ではなく、ここまで膨らんでしまった財政赤字、生産人口の減少・少子化にあります。決して、民営化・自由化が絶対悪であるような短絡的なものの見方はしてはいけないのです。


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関連リンク


<著者関連のサイト>


<ほかの方の書評>


書評を書き終えた後、ざっとAmazonレビューとGoogle検索トップ10の書評を読みました。Amazonレビューのほうは、数が少ないですが、星1つ、星2つに私と同意見の評価がありました。また、Google検索トップ10の書評は、残念ながら、著者に押し付けられた考え方を鵜呑みにしてしまっている方のみでした。



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