「学力」の経済学


「学力」の経済学
中室 牧子
ディスカヴァー・トゥエンティワン ( 2015-06-18 )
ISBN: 9784799316856

<目次>
  • はじめに
  • 第1章 他人の“成功体験”は我が子にも活かせるのか?
    データは個人の経験に勝る
  • 第2章 子どもを“ご褒美”で釣ってはいけないのか?
    科学的根拠に基づく子育て
  • 第3章 “勉強”は本当にそんなに大切なのか?
    人生の成功に重要な非認知能力
  • 第4章 “少人数学級”には効果があるのか?
    科学的根拠なき日本の教育政策
  • 第5章 “いい先生”とはどんな先生なのか?
    日本の教育に欠けている教員の「質」という概念
  • 補論:なぜ、教育に実験が必要なのか
  • あとがき
  • 参考文献


読書日記人気ランキング


ベストセラーとなった本書は、特に教育に関心の高い方の中では読んだ方も多いのではないかと思います。今さら感もありますので、個人の備忘メモとして残しておきたいと思います。


「経済学」は「科学」?


本書は「経済学」の本です。「経済学」にもいろいろありますが、その中で「教育経済学」です。なかなか聞きなれない言葉です。著者は、「経済学」を「科学」だと言います。もっと一般化して言えば、「社会科学」は「科学」ということでしょう。「再現性」のあるもの、あるいは「再現性」を確認するプロセスが科学です。物理学も科学ですし医学も科学です。

医学などの自然科学では、同じデータを用いた実験から同じ結果が得られるという「再現性」が保証されなければ、その結果は科学的に妥当なものとはみなされません。(P137)


全く同感です。そして、著者は「経済学」も科学だとしています。「教育経済学」もしかりです。

教育経済学では、たった一人の個人の体験よりも、個人の体験を大量に観察することによって見出される規則性を重視する。 (P17)


ところが、こと「教育」に関して言うと、科学的ではない論説がまかり通っています。

西内啓氏「自分が病気になったときに、まず長生きしているだけの老人の秘訣を聞きに行く人はいないのに、子どもの成績に悩む親が、子どもを全員東大に入れた老婆の体験記を買う、という現象が起こるのは奇妙な事態だとは思わないだろうか」 (P14)

日本ではまだ、教育政策に科学的な根拠が必要だという考え方はほとんど浸透していないのです。 (P18)


もっといえば、社会科学全般的に、非科学的な論説がまかり通っています。話が脱線してしまいますので、社会科学・文系学部批判は、以下の書評を参照ください。



「教育」を科学する


では、「教育」の経済効果を「科学的」に検証した場合、どうなるのでしょうか?それが冒頭述べたことです。

定説
  • ご褒美で釣っては「いけない」
  • ほめ育てはしたほうが「よい」
  • ゲームをすると「暴力的になる」


科学的な検証結果
  • ご褒美で釣っては「よい」
  • ほめ育てはしたほうが「いけない」
  • ゲームをすると「暴力的にはならない」


少し補足が必要なので、本書から引用します。


褒美について

ご褒美は「テストの点数」などのアウトプットではなく、「本を読む」「宿題をする」などのインプットに与えるべき (P36)


ほめ育てについて

「自尊心が高まると学力が高まる」というそれまでの定説は覆されました。バウマイスター教授らは、自尊心と学力の関係はあくまで相関関係にすぎず、因果関係は逆である、つまり学力が高いという「原因」が、自尊心が高いという「結果」をもたらしているのだと結論づけたのです。 (P46)

悪い成績を取った学生に対して自尊心を高めるような介入を行うと、悪い成績を取ったという事実を反省する機会を奪うだけでなく、自分に対して根拠のない自信を持った人になってしまうのです。 (P48)

子どもをほめるときには、もともとの能力でなく、具体的に達成した内容を挙げることが重要 (P51)


他の費用対効果の高い教育施策
  • 教育の収益率に対する情報提供
  • 教育委員会と自治体政府の協力
  • 習熟度別学級
  • 教員の数を増やすよりも質を上げること


有効性の乏しい、低い施策
  • 少人数学級:低レベル層には有効だが一般的には無効
  • 大検による進学:大検進学者は年収や就職率が低い。


非認知能力


結局のところ、年収や就職率の高さを決定づけるのは、単に頭がよいかどうかというよりも、人間的素養ができているかどうかだと思いますが、本書では「非認知能力」と呼んでいます。


  • 自己認識(Self-perceptions)
  • 意欲(Motivation)
  • 忍耐力(Perseverance)
  • 自制心(Self-control)
  • メタ認知ストラテジー(Metacognitive strategies)
  • 社会的適性(Social competencies)
  • 回復力と対処能力(Resilience and coping)
  • 創造性(Creativity)
  • 性格的な特性(Big 5):神経質、外交的、好奇心が強い、協調性がある、誠実
  • やり抜く力:能力よりも努力を信じること


私自身、営業パーソンの教育を担っていますが、技術者と異なり、営業パーソンは「非認知能力」が求められる割合が多いのではないでしょうか。


課題と提言


さて、ここまでまとめあげたところで、教育経済学をより有効活用していく上での課題が浮き彫りになります。最大の課題は、アメリカや諸外国では科学的に検証済ですが、日本では未検証だということです。世界共通事項もあれば、日本特有の問題もあるでしょう。日本特有の事情が反映されていません。


日本で未検証である最たる理由は、自治体や教育委員会が取得した教育に関するデータが非公開で、研究者がアクセスできないことです。また、過度な個人情報保護法の適用が、学校が家庭の情報を得ることを遮断してしまっています。


著者はこのように総括はしていませんが、本書の提言をまとめると、以下のようになるのではないでしょうか?


  • 自治体・教育委員会は教育に関するデータを公開せよ。
  • 個人情報保護の適用をゆるめ、学校と家庭の連携を。
  • 公開データによる研究、学校と家庭の連携により、教員の質を向上させよう。


以上


関連書籍・関連記事

本書では褒美をOKとしています。


EGMフォーラム月例会報告(4月20日)~行動分析学と協働関係の作り方~『メリットの法則』スライド公開 : なおきのブログ

久しぶりのEGMフォーラム月例会の参加しました。前日、午前2時30分過ぎまでスライドを作成していたため、睡魔が遅い、途中寝落ちてしまいました。すみません。

naokis.doorblog.jp


読書日記人気ランキング



↓↓参考になったらクリック願います↓↓
ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村