<目次>
- はじめに
- 第Ⅰ部 官能小説の歴史
- 1 カストリ雑誌からSM御三家へ - 官能解放!
- 2 性表現の取締りは何をもたらしたか
- 3 ポルノ躍進の時代 - 北原武夫から川上宗薫へ
- 4 発禁本のセックスシーン
- 5 ポルノ六歌仙の時代
- 6 官能小説の隆盛 - 大衆化の時代
- 7 女流ポルノ登場!
- 8 大革命の時代 - 文庫シリーズ誕生!
- 9 おんなの時代の官能表現
- 10 群雄割拠 - 女のイマジネーション、男のテク
- 11 癒し系の時代
- 12 百花繚乱の官能小説
- 第Ⅱ部 官能小説の妄想力 - ジャンルと表現技法
- 1 女の年齢によるジャンル区分
- 2 男の立場によるジャンル区分
- 3 女の職業によるジャンル区分
- 4 官能小説の文体
- 5 ジャンルの流行りすたり
- 6 時代官能小説のジャンル
- おわりに
官能小説のレファレンス
「女性器に男性器を挿入した」という文章を読んでも、現代人はもはや刺激を受けないのだ。官能小説家たちは、われわれの贅沢で多様な欲望に応えるため、ストーリー設定や主要キャラクターの造形、あるいは性交・性器描写の技法、さらにはタイトル付けなど、ありとあらゆる側面でその表現を深化させてきた。(表紙より)
目次を見てのとおり、官能小説の歴史とジャンルを、ある意味網羅的に取り上げた本です。官能小説のレファレンスといってよいでしょう。ただ、歴史と言いましても、ここで取り上げている歴史は主に戦後のみです。また、ここで取り上げているすべての小説は、なんらかの性描写が伴います。
時代が異なるので取り上げられていませんが、谷崎潤一郎の『痴人の愛』や、田山花袋の『蒲団』は、フェチもの(変態もの)でありながら、直接的な性描写はありませんでしたので、本書で言うところの官能小説には値しないのでしょう。
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取締りが表現の技巧を生んだ
さて、どこまでの性描写が許されるかは、写真や映像と同様、警察当局による摘発との戦いでした。『チャタレイ夫人の恋人』が摘発されたの1960年、『四畳半襖の下張』が摘発されたのが1948年/1972年でした。性表現の取締りが、結果的に、直接的な表現に頼らない表現の技巧を生み出し、官能小説を深みのあるものへと深化させることになります。
官能作家たちは、規制のより厳しかった時代に想到した婉曲な表現が読者の淫心をかきたてることを体得していたので、ここにきて過激と婉曲が混交した、いっそう淫靡な作品を生み出すようになっていった。 (P97)
しかし、写真や映像の分野では、ヘアヌードが時代とともに許されるようになってきたように、小説における性描写も許されつつあります。
- 『四畳半襖の下張』/1917年 伝永井荷風(著)
- 『肉体の門』/1947年 田村泰次郎(著)
- 『チャタレイ夫人の恋人』/1928年 D.H.ローレンス(著)/1960年 伊藤整(訳)
- 『O嬢の物語』/1954年 ポーリーヌ・レアージュ(著)/ 澁澤龍彦(訳)
これら摘発が行われていた古典的名著は、ぜひ読んでみたいものです。
本書が取り上げている主な作家
本書が取り上げている主な作家を抜き出しておきます。「主な」ですので、実際には、この2~3倍の作家名が記されています。
- 団鬼六
- 北原武夫
- 川上宗薫
- 勝目梓
- 豊田行二
- 丸茂ジュン
- 中村嘉子
- 一条きらら
- 南里征典
- 睦月影郎
- 藍川京
- 北川悦史
- 牧村僚
- 内藤みか
女流作家の作品で気になった作品はこのあたり。
女流作家
- 丸茂じゅん 『痴女伝説』
- 中村嘉子 『やわらかい疼き』
- 岡江多紀 『夜更けにスローダンス』『真昼の秘めごと』
- 斎藤綾子 『愛より速く』
- 一条きらら 『不倫ばやり』『溺れる女』
困ったことに、絶版になっているのか、入手できないものが多いです。困りました。
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