<目次>
  • 序章 ヨーロッパ化した世界
  • 第一章 軍事革命と近代国家
    • 1 軍事革命とは何か
    • 2 近代国家の誕生
    • 3 中央集権国家イギリス
  • 第二章 近代世界システムの誕生
    • 1 近代世界システムとは何か
    • 2 アントウェルペンからアムステルダムへ
    • 3 近代世界システムに貢献した事物
  • 第三章 大西洋貿易とヨーロッパの拡大
    • 1 弱いヨーロッパ
    • 2 ヨーロッパの拡大
    • 3 大西洋貿易の台頭
    •  4 イギリス海洋帝国の大西洋貿易
  • 第四章 アジア進出とイギリス海洋帝国の勝利
    • 1 ヨーロッパとアジア
    • 2 異文化間交易と商品連鎖
    • 3 ヨーロッパのアジア進出
    • 4 ポルトガル海洋帝国とイギリス海洋帝国
  • 終章 近代世界システムの終焉
  • あとがき
  • 主要参考文献


近世以降、なぜ、ヨーロッパが世界を支配するに至ったか、全体を俯瞰するのに大変参考になりました。また、日本史におけるヨーロッパとアメリカとの関係も、この覇権史と見事に符合が合います。単に書評に終わらせず、独自の考察も付け加えておきます。なお、本書は、朝活読書サロンで紹介しました。

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覇権国家

覇権国家


本書では、世界史上、覇権国家は3つしかないとしています。17世紀のオランダ、19世紀から第一次世界大戦までのイギリス、第二次世界大戦後のアメリカです。しかし、日本史との関連を考える上で、あえてポルトガルも付け加えておきます。


なぜ、覇権を為し得たのかというと、1に軍事力、2に情報力でした。たしかに軍事力、情報力という点で、ポルトガルは役不足でしたが。

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軍事力

4~5世紀にローマ帝国が崩壊して以降16世紀に至るまで、ヨーロッパは、イスラム・モンゴル・トルコに対して劣勢に立たされるわけですが、なんていうことはない、軍事的に弱かったからです。また、鉄砲を持っていたから、ヨーロッパが優位に立ったわけでもありません。元々火薬は中国人の発明です。


本書では、16-17世紀に登場したオランダのマウリッツが軍政改革を行ったことにより、軍事規律が生まれ、軍隊が組織化され、無駄が排除され、効率よく戦争ができるようになったとのことです。オランダはスペイン(ハプスブルク家)との戦争に勝ち抜き、独立を勝ち取ります。


オランダの台頭

当初、最西端に位置するポルトガル・スペインが優位に立ちますが、ヨーロッパ域内の海上貿易を半ば独占していたオランダが台頭しました。貿易の独占=情報の独占です。17世紀半ばごろには、アジアにおいて、オランダはポルトガルを排除していきます。

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イギリスの台頭

しかし、その後、なぜイギリスが台頭してきたのでしょうか。一つに、他のヨーロッパ諸国より早く封建体制から脱し国家として成立したこと(ドイツは分裂状態で、フランスも封建領主が強かった)、これにより、税収も軍事も中央集権化が進みました。また、イギリスは間接税を主たる財源としており、フランスは土地税が財源でした。経済の発展とともに、小国のイギリスのほうが大きく税収が伸びます。


さらに、イギリスには17世紀末に中央銀行であるイングランド銀行が設立されます。今日でも、金融は信用を創造し経済をレバレッジする力があります。かくして、お隣の大国であるフランスをも凌駕する力を蓄えていきます。


オランダとイギリスの逆転

本書では、フランス革命とナポレオン戦争について触れられていませんが、オランダがフランスに占領されたのに対し、イギリスは無傷でした。オランダとイギリスの力関係の逆転がいつ起きたかが明確に書かれていませんが、おそらくナポレオンの時代ではなかったかと推察します。ナポレオンの時代は、日本への派遣も滞っていたからです。


情報力(インテリジェンス)

1837年、モーリスが電信を発明すると、瞬く間に電信はヨーロッパ・アメリカに普及します。1866年には大西洋開通、1871年には日本まで到達します。第一次世界大戦前には、世界の電信設備の8割をイギリスが敷設したとのことです。


同じことが戦後の情報通信にも言えます。アメリカ国防省はコンピュータ情報通信網ARPANETを1969年に開設、そして、冷戦終了後の1992年には、商用開放しインターネットになりました。本書では触れられていませんが、インターネットのベース産業である、ルーター(CISCO)、CDN(Akamai)、情報検索(Google)、端末上の情報処理(Microsoft)、ソーシャルネットワーク(Facebook)と、見事にアメリカ企業がインターネットを押さえています。

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日本史との関連は、書評その2に続きます。


関連書籍


鎖国下の日本で唯一貿易をしていた国がオランダです。オランダの新聞は出島にも届けられており、それを翻訳・意訳して、長崎奉行所を通じ江戸幕府に『風説書』が提出されていました。本書によると、江戸幕府がポルトガル船の来航を禁止した1639年以降もしばしばポルトガル船が日本近海に表れていたとのことで、完全に姿を消すのは17世紀末だとのことです。『ヨーロッパ覇権史』でも、この時期にオランダはインド洋からポルトガル船を排除したとしていますので、符合します。


また、本書では、ナポレオンが台頭し、オランダがフランスに占領された19世紀初頭、オランダ船の来航が数年間途絶えた時期があったとしています。そういえば、シンガポールにイギリス人のラッフルズが上陸したのは1814年です。『ヨーロッパ覇権史』にも『オランダ風説書』にも書かれていませんが、この間にイギリスに出し抜かれたのでしょう。イギリスは1840年にはアヘン戦争を起こし、1853年、アメリカ、ロシアに続いて日本に三番乗りします。



イギリスが、アフリカ、西インド諸島との間の三角貿易で富を築く経緯が書かれています。『ヨーロッパ覇権史』にも書かれていましたが、本来、貿易とは相互のWIN-WINのはず。一方的にアフリカと西インド諸島が収奪されたのは、三角貿易の担い手がイギリス船だったということです。奴隷はイギリスに従わざるを得ませんでした。


ヴィクトリア朝時代のインターネット
トム・スタンデージ
エヌティティ出版 ( 2011-12-21 )
ISBN: 9784757102996


この本のタイトルが意味するところは、電信です。電信がどのように普及していったかを分かりやすく解説してくれます。電信の普及が、戦争を情報戦にし、金融の決済機能を発達させ、新聞を発達させました。そして、19世紀に電信を握ったのがイギリスです。


今日も、ロンドンは為替取引の最大市場ですし、イギリスの新聞やテレビ局の信頼性が高いと言われるのは、こうした背景があるのでしょう。



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