収益目的の投資は、投資時点では資産計上される


私の本職は、投資審査業務です。投資合否を判断するには、その投資により、将来生み出す利益を算出する必要があります。当然、「投資金額」<「将来生み出す利益の総和」が投資GOの条件です。


投資を実行に移す時だけでなく、投資後も決算期毎に両者のバランスチェックが必要です。なぜなら、「投資金額」は投資時点で損金計上されているわけではなく、資産計上されており※1、資産残高と「将来生み出す利益の総和」のバランスによっては、資産が毀損している可能性があるためです。投資時点の損益計算書にはそのままでは表れず、貸借対照表上、現金等の流動性資産が、製品開発投資※2であれば棚卸資産(在庫)となり、企業買収であれば、子会社株式の固定資産に変わるだけです。図示すると以下の通りです。


企業買収前後の貸借対照表


※1 投資でも、将来収益を生み出す可能性が低い研究開発は、投資時点で損金扱いでき、資産計上する必要はありません。安倍政権は企業に対し、研究開発投資を奨励しており、研究開発投資を行うことで税額控除を受けられます。いわゆるアベノミクスです。1億円の研究開発投資を行い、法人税率が20%なら、20百万円の税金が戻ってきます。


※2 私の場合、知っているのはソフトウェアの製品開発投資だけで、ハードウェアについては未経験です。ソフトウェアとハードウェアでは、資産計上の考え方が異なるかもしれません。ソフトウェア開発で、初期バージョン(製品マスターと呼ぶ)完成までは、完成までは本当に販売できるかどうかわからないため、経費計上され、初期バージョン完成後の改良は、販売目途がついてから実施するもののため、資産計上扱いになります。公認会計士協会が指針を出しています。

ソフトウェアは、一度製品マスターを作れば原価ゼロで複製できますが、ハードウェアは生産毎に原価が生じます。製品マスターを改良していくと資産計上という考え方は、ソフトウェアについてのみでハードウェアは異なるかもしれません。そのあたりは実務経験がないため、よくわかっておりません。ご了承下さい。


資産残高と将来生み出す利益のバランス

減損会計


投資後も、資産残高と将来生み出す利益のバランスのチェックが必要です。特にソフトウェアのような無形資産・知的資産や、資産以上の高額で企業買収しのれん代が生じている場合などは要注意です。


通常、将来生み出す利益のほうが大きいと思うから、企業買収や製品開発投資を行うわけです。しかし、事業計画通りにうまくいかず、資産残高よりも将来生み出す利益が減ってしまった場合、その差額分を減損する必要があります。


減損会計(げんそんかいけい、impairment accounting)とは、資産の収益性が低下して投資額の回収が見込めなくなった場合、当該資産の帳簿価額にその価値の下落を反映させる手続きをいう。減損処理ともいう。


全額、一括減損した場合が、以下の図です。


のれん代の一括減損


期末に資産の棚卸が必要


さて、多くの企業は12月末は第三四半期決算です。現在所有している傘下の企業・製品在庫等、将来利益を生み出すとしていた資産の棚卸が必要です。上場企業の場合、適時開示義務があるため、12月末の状況は遅くとも、第三四半期決算発表時(1月末から2月中旬ごろ)までには公表する必要があります。


DeNAが閉鎖したキュレーションサイトを今後存続するのか否か、12月末時点で一旦結論を出す必要があります。再開無しという結論に達した場合は、全額減損です。また、再開希望を持っていたとしても、すでに信用を失い、かつ信用回復のため専門家の採用など多大なコストがかかるため、収益性も著しく悪化、もしくは黒字の目途も立たないかもしれません。普通は、黒字の計画を立てられなければ、再開はしませんが(赤字計画は株主利益を毀損する背任行為)。なので、このまま再開なしとなる確率が極めて高い。


16年9月末半期決算時のDeNAの業績は、営業利益152億円、自己資本2066億円。通期に換算すると、営業利益は304億円。これに対し、キュレーションサイトののれん代は36億円としています。営業利益に対して15%、自己資本に対し2%弱ですので、実は大した影響はありません。しかし、すでにそれ以上株価が下落していますので(炎上前の11月24日終値3640円、12月29日終値2511円)、株価下落理由は、企業としての信用毀損と見てよいでしょう。


いづれにせよ、結論を先送りできる状況にはなく、12月末で一旦結論を出し、第三四半期決算日までにはその公表がなされます。


参考情報



↓↓参考になったらクリック願います↓↓
ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村