天使か悪魔か?
天使と悪魔
image via pixabay.com license: P.D.


<目次>
  • はじめに - あなたに迫る「危険な隣人」
  • 第一章 危険な隣人~職場編
  • 第二章 危険な隣人~マンション編
  • 第三章 危険な隣人~ご近所トラブル編
  • 第四章 危険な隣人~ハラスメント編
  • 第五章 危険な隣人~スクールカースト編
  • 第六章 「ゆがんだ正義感」が悪意を生む
  • 第七章 「危険な隣人」にどう立ち向かうか
  • おわりに
  • 参考文献



本書を最初に知った時、本書のタイトルにある「ゆがんだ正義感」の持ち主とは、日本のエネルギー需要を無視した反原発運動や日本の安全保障を無視した安全保障関連法反対派のことを指しているのかと思いました。


確かにそうした人も対象としていますが、タイトルには「他人を支配しようとする人」と続きます。それは誰を指すのかは、目次を見て明らかになりました。ソーシャルメディア上にいるがリアルには遠くの彼方にいる迷惑な人ではなく、もっと身近に遭遇してしまう人たちを指します。職場でのパワハラ、マンショントラブル、隣人トラブル、スクールカースト、ママカースト、モンスターペアレントなど。隣人による理不尽な仕打ちを本書では扱っています。


世の中にはそういう迷惑な人たちがいるので、そういう人たちに遭遇した場合の対処方法を伝えるというのが本書の目的の一つではありますが、真の目的はそうではありませんでした。
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役割や権威を与えられると、人は狂暴化する。


真の目的は、「ゆがんだ正義感で他人を支配しようとする」側面を誰もが持っていることを伝えることにあります。特に役割や権威を持つと、人は狂暴化する可能性があることに警鐘を鳴らします。1960年代、1970年代にアメリカで実施された2つの心理学実験が証明しています。



そして、心理学実験ではなく、実際に起きた歴史的事件が、ナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺です。


人間はある「役割」を与えられただけで、簡単に「狂暴化」する存在だということである。クラスのいじめっ子、警察官、会社の上司・・・。他人を自由に操ることのできる権力を手にしたとたんに、誰もが「暴君」として横暴な振る舞いをし始める可能性がある。

きわめて狂暴に見える人物も、もともとの性格や育ちだけに原因があるわけではなく、実は「状況」や「役割分担」に大きく影響されているのかもしれない。

(P166)

「ネット社会」は、「目の前で見て、手を触れてみる」という「リアル」な実感が大きく欠如した世界である。だから、ニュースで見た、あるいはネットで知り合った他人に対して、あからさまな敵意をあらわにしたり、聞くに堪えないような悪口を書き込んだりすることが平気でできてしまうのだ。「アイヒマン実験」の定期した問題意識は、現代になってますます重要な意味を持ってきているように見える。

したがって、自分もまた他人の「悪意」の片棒を担いでいないか、よく考えてみなければならない。「自分には責任がない」「周りの言葉に従っただけだ」という態度では、アイヒマンと同じ道をたどる危険性があるのだ。 (P170)


アイヒマンとは、ユダヤ人虐殺を指揮したナチス・ドイツの責任者です。彼は絞首刑になりましたが、命令に従っただけだとし、自分の罪状を否認しました。


そして、インターネットが普及した今、正義だとして信じて悪意の道へと転落してしまう可能性が誰にでもあります。
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共感のメカニズムの表と裏


しかし、どのような心理学的メカニズムでゆがんだ正義を猛進してしまうようになるのでしょうか?実は、ゆがんだ正義感とは共感の負の側面だと筆者は論じます。


私たちはみな、「共感」のシステムで繋がっている。それは、日本の歴史と文化の中で高度に磨き上げられ、「おもてなし」の精神として洗練されたり、大災害の時にも烈を作って水や食料の配給を待つ姿勢となったりして、世界的にも大きく賞賛されることが多くなった。しかし同時に、そのシステムは昔の「村八分」や「隣組」の制度のように、いつの間にか私たちを縛り上げ、監視し合うように仕向け、自由な生き方を妨げる「空気」となって、私たちを苦しめているようにも見える。 (P170)


日本人の特徴である共感メカニズムを、ポジティブに言えば「おもてなし」となりますが、負の側面を照らせば、「村八分」であり、「空気」を読みすぎるあまり閉塞した社会が浮き彫りになります。


日本人の嵌ったゆがんだ正義感


先にナチス・ドイツのアイヒマンの無責任でゆがんだ正義感について説明しました。本書では触れていませんが、同じことが戦前にも当てはまりまるのではないでしょうか。負けると分かっている戦争に誰もNOと言えない雰囲気を醸成していました。開戦するという雰囲気が、まさに日本人が嵌った最もゆがんだ正義感です。


日本人の歪んだ正義感が開戦を踏み切らせた。


社会心理学者の山岸敏男氏が『心でっかちな日本人』と評している日本人の特徴と同一ではないかと思います。



この『心でっかちの日本人』では、滅私奉公的な日本人の勤労観、いじめのメカニズムの生成する課程を説明しており、その課程は、まさに本書でゆがんだ正義感で他人を支配しようとするメカニズムとそっくりです。バレンタインでのチョコレートを贈る習慣の生成メカニズムもしかり、災害のたびに呼び掛けられる自粛の呼びかけ子どもを持つのに覚悟を問う声もまた、無責任かつゆがんだ正義感の一種です。


思い起こしてみると、ゆがんだ正義感の事例が、いくつも思い浮かんできます。私はこのブログを通じて、歪んだ正義感にNOと言い続けてきたのかもしれません。
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ゆがんだ正義感に対する処方箋


『心でっかちの日本人』での処方箋は、自らに正直であること、さらけだすことでした。その考察として、アップルのCook氏の告白を挙げています。そして、本書でも同じ処方箋を述べています。


人の意見に耳を傾けること。自分と違う考え方も素直な心で受け容れること。さまざまな試行錯誤を繰り返すこと。こうした経験を通して、私たちは「ゆがんだ正義感」のワナから逃れることができるようになるのではなかろうか。 (P179)



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