(昨日の硬派な記事から一転しまして、今回は軟派な記事です。)
なぜ、男は悪女に翻弄されてしまうのでしょうか?ついつい、男を惑わす悪女の小説に吸い寄せられてしまいます。そして今回は、江戸川乱歩の『黒蜥蜴』(くろとかげ)。名探偵明智小五郎と盗賊団の女首領・黒蜥蜴の対決物語です。
ほかに、男を惑わす悪女本をご存知の方、こっそり教えていただければと思います。
<目次>
暗黒街の女王 ホテルの客
女魔術師
女賊と名探偵
一人二役
暗闇の騎士
名探偵の哄笑
名探偵の敗北
怪老人
令嬢変身 魔術師の怪技
「エジプトの星」
塔上の黒トカゲ
奇妙な駈落者
追跡
怪談
恐ろしき謎
水葬礼
地底の宝庫 恐怖美術館
大水槽
白い獣
人形異変
離魂病
二人になった男
再び人形異変
うごめく黒トカゲ
あらすじ~黒蜥蜴登場シーン~
時は戦前の昭和。冒頭の始まりは、クリスマス・イブのナイトクラブでした。引用します。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。真っ黒なイブニング・ドレスに、真っ黒な帽子、真っ黒な手袋、真っ黒な靴下、真っ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
そう。黒蜥蜴は美貌の持ち主です。男を惑わす悪女の必須条件、それは美人であることです。美人の女性は、悪女になる条件を備えています。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しも分からなくても、その美貌、そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
女が男を調略する秘訣はやはり、その美しい肉体です。黒ずくめの衣装が、彼女の肌の白さを際立たせます。男は女の肌に弱い。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠の耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕輪と、三筒の指輪のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
あー!なんということだ!人々は、黒蜥蜴をダークエンジェル、女王様と祀り上げ、黒蜥蜴の前にひれ伏してしまうのです!
以上、冒頭の「暗黒外の女王」の3ページほどから引用しました。
美貌に満ちた怪しげな女王は、この後、明智小五郎の前には緑川夫人という貴婦人の装いで登場します。明智小五郎と緑川夫人(黒蜥蜴)の丁々発止のやり取りは、ぜひ本書をお読みください!
関連書籍:悪女シリーズ
『黒蜥蜴』といえば、三島由紀夫が戯曲化していて、演じたのは美輪明宏とのこと。こちらも読んでみたい。
そもそも、『黒蜥蜴』を知ったのは、この本でした。
悪女物に惹かれて最初に読んだのが、谷崎潤一郎の『痴人の愛』です。実は、谷崎潤一郎は・・・変態です。『痴人の愛』に登場する悪女ナオミは、15歳にして悪女の素養を身に着けています。やはり主人公河合譲治は、少女の肌の前に屈してしまいます。
次に読んだ悪女ものが、有島武郎の『或る女』です。はっきり申し上げますが、有島にしろ谷崎にしろ、およそ「文豪」と呼ばれる方たちは、少なからず変態の素養を持っています。
『或る女』の葉子の場合、確信犯的な悪女です。不倫男と自らの夫を騙し、金銭を詐取します。夫はアメリカで働き、夫の稼ぎで不倫男に貢ぐ、とんでもない女です。しかし、夫は最後まで妻を信じます。男はそんなとんでもない女に騙されてしまうものなのです。
一転して、有吉佐和子の『悪女について』の公子は、天真爛漫な悪女です。ナオミと同様、16歳にしてすでに男を落とす術を知っています。16歳で妊娠、17歳で出産。3人の男が「自分が父」と信じます。女の無邪気さに、男は騙されます。
公子同様、無邪気な装いを見せる『イニシエーション・ラブ』の繭子。清楚な少女なのか?それとも清楚な仮面を被った悪女なのか・・・
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