ライフネット生命創業者でこのたび立命館アジア太平洋大学学長に転出される出口治明さん。出口さんの本を読むのは『世界史としての日本史』、『「全世界史」講義 I』『「全世界史」講義 Ⅱ』につづいて4冊目です。いつしか本を書きたい、できれば世界史の本を書きたいと思っている私には、出口さんの世界史への造詣の深さには感服します。
出口さんの深い知識の拠り所となっているのが圧倒的な読書量です。自分より読書量の多い方の読書本は、選書に打ってつけです。本書を読むことは、すなわち読書家に選書をお願いすることに通じます。
<目次>
- 第1章 『はらぺこあおむし』には宇宙がぜんぶ詰まっている。
- 第2章 『西遊記』は、ハチャメチャだけど、愉快痛快。
- 第3章 『アラビアン・ナイト』でわかる、アラブ人ってほんとにすごい。
- 第4章 どんな人生にも雨の日があるから『アンデルセン童話』を読む
- 第5章 『さかさ町」で、頭と心をやわらかくする。
- 第6章 『エルマーのぼうけん』には、子どもの「大好き!」がテンコ盛り。
- 第7章 『せいめいのれきし』で気づく、いまを生きることの大切さ。
- 第8章 毒があるから心に残る『ギルガメシュ王ものがたり』。
- 第9章 「効率ばかり追って幸せですか?」と『モモ』は問いかける。
- 第10章 大人も子どもも『ナルニア国物語』を読もう。
本書は10章から構成され、目次を見れば紹介されている本の一覧が確認できますが、それぞれの章ごとにさらに副読本が最低6冊紹介されています。つまり、本書では70冊の本が紹介されていることになります。その70冊を選ぶためには、さらにより多く、おそらく10倍以上の本からスクリーニングしたのではないかと推察します。
目次タイトルの中にある本で、児童書も含めて読んだことがあるのは、『はらぺこあおむし』、『西遊記』、『アラビアン・ナイト』、『アンデルセン童話』。それ以外は読んだことがありません。
『さかさ町』
『さかさ町』だけが異色なので、簡単に紹介しておくと、この本が日本に紹介されたのは2015年です。屋根が下になった家、老人が遊び子どもが働く。病院でお金を払うのは健康な人。学校は「忘れる」場所。常識的な観念がすべて逆さになり、頭と心を柔らかくすることで多様な価値観を認めることの大切さを、本書を通じて出口さんは説きます。
同一の価値観に染まった社会は、同じ価値観を持った人には天国ですが、違う価値観を持った人には地獄です。
だから、世界連邦をつくったらダメです。どんなに立派な政治を実現しても、それに息が詰まる人が亡命する場所がなくなってしまうのですから。
かつてのソ連や中国の共産主義が目指したのが、まさに世界連邦でした。
本書からの選書
さて、本書を手に取ったのは「選書」が目的。この10冊の中から次に読む本を選ぶとしたら、『モモ』。あらすじを知っているけど、読んだことがありません。『モモ』は、岩波文庫の売れ筋上位をずっとキープしていますので、読んでいる人が相当いるはず。事実、シミルボンの中でも、10冊の中で一番読まれているようです。
出口さんが言うように、これら海外の児童書は海外エリートたちもまず読んでいたり少なくとも知っていますので、こちらも仕込んでおけば、何かの折に話題として触れることもあるでしょう。
- 【世界の文学を読む】#7『モモ (岩波少年文庫(127))』 : なおきのブログ(2018年11月8日)
60冊の副読本から、読んでみたい本を1冊チョイスしておきます。
人間のうわさ話は猿の毛づくろいと同じ効果があるといいます。うわさ話も毛づくろいも、情報交換の第一歩です。「言葉」そのものに対する造詣を深めたいと思っていますので、『ことばの起源』もまた読んでみたいと思います。
本書評は、シミルボン書評の再掲です。