イスタンブールのグランバザール 混沌・過剰な世界観

Istanbul_grand_bazar

Image from Bazaar - Wikipedia lic:CC BY-SA 2.5


ITビジネスの原理
尾原 和啓
NHK出版 ( 2014-01-28 )
ISBN: 9784140816240


本書との出会いは、『静かなる革命へのブループリント: この国の未来をつくる7つの対話』での宇野常寛さんと、本書の著書である尾原和啓さんとの対談の中で、本書について触れられていたことがきっかけです。参考元の文献にあたるというのが選書の一つの方法です。『静かなる革命~』も非常に楽しく読ませていただきましたが、本書もまた、非常に楽しく読ませていただきました。


<当ブログ記事の目次>

  1. インターネットの歴史の振り返り
  2. 秩序・効率 vs. 混沌・過剰
  3. 伽藍とバザール
  4. 英語はローコンテキスト言語
  5. これから先の10年
  6. 『ITビジネスの原理』の目次
  7. 関連書籍『ネクスト・ソサエティ』


インターネットの歴史の振り返り


インターネットの旗手、ネットスケープ・コミュニケーションズ社がブラウザビジネスを開始したのが1994年、対するマイクロソフトによるWindows95、Internet Explorerの標準搭載が1995年の出来事でした。その後、ディレクトリー型サービスのYahoo!、検索エンジンのGoogle、オンライン書店のAmazon、ソーシャルネットワークのFacebookなどの主要なインターネットプレイヤーが登場しました。そして2000年以降Appleが劇的に復活し、スマートフォン・タブレットの領域のトップランナーを演じています。しかしどれもアメリカの企業です。GoogleもAmazon、Appleも、圧倒的な効率・生産性向上により高い収益率を誇る反面、アメリカに雇用を生み出さないと批判もされています。


日本に目を転じれば、1996年にYahoo!とソフトバンクが提携しYahoo! Japanを開始、またオンラインショップの楽天も1997年に創業しました。ソフトバンクと楽天の二社が日本のインターネット企業の代表格と言ってもよいと思います。


秩序・効率 vs. 混沌・過剰


インターネットが普及して約20年、インターネット未来は、効率化を追求するあまり、雇用を減らしていく作用しかもたらさないのでしょうか?本書の著者尾原さんはNOと言います。


本書の中で、二つのオンラインショップ、Amazonと楽天を対極的に捉えています。Amazonは、Amazon自身が直販するだけでなく、さまざまな商店が出店をすることができます。楽天ももちろん、直販部分はなく、さまざまな商店が出店します。


しかし二つの違いは明確で、Amazonはすべて画一的な画面、画一的なデザイン、画一的な決済手段を用いています。その世界観は「秩序」です。否定的な言い方をすれば、「無味乾燥」です。一方楽天は、見るからにゴチャゴチャしています。店舗ごとにまったくデザインが異なります。まさに「楽市楽座」を彷彿とさせます。その世界観は「混沌」です。


このふたつの世界観を、後から出版された『静かなる革命~』では、次のように評していました。


  • 効率化の<アメリカ的インターネット>
  • 過剰さの<日本的インターネット>


ふと、このブログを書きはじめた際に、この二つは「伽藍とバザール」ではないかと気づきました。


伽藍とバザール


ソフトウェア開発において、オープンソース・ソフトウェアの開発をバザール方式と呼ぶのに対し、その対極の手法を伽藍方式と呼びます。以下、類似概念を含めて、私的に整理してみました。

伽藍 バザール
大聖堂 市場(いちば)
ゲゼルシャフト ゲマインシャフト・コミュニティ
階層 フラット
中央集権 分権
トップダウン ボトムアップ
秩序 混沌
コピーライト コピーレフト
商用ライセンス      オープンソース・クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


よくも悪くも、日本はハイコンテキスト社会です。しかし英語は、アングロサクソン人だけが使う言語ではなく、今や世界中の人たちが使う言語です。


英語はローコンテキスト言語


英語は他のヨーロッパ言語と比べて、名詞の男性・女性・中性がなくなり、動詞の人称変化もBe動詞を除いて二つしかありません。英語以外の欧米語では、犬は男性、猫は女性です。ドイツ語ではDer Hund、Die Katzeです。Derは男性名詞につく定冠詞、Dieは女性につく定冠詞です。英語ではどちらもTheです。


どこの文献で読んだか忘れてしまいましたが、英語がほかのヨーロッパ言語よりも極端にシンプルになった背景は、18世紀以降、イギリスが世界覇権を目指したことと密接に関係しているようです。世界の民族を相手に植民地化・ビジネスを展開していく上で、英語による会話が欠かせません。異なる文化・背景を持つ民族と会話を成立させていく上で、他の言語よりもシンプルにならざるを得なかったようです。


そして今日も、英語は唯一の世界語としての地位を得ています。イギリス人・アメリカ人・オーストラリア人は、他の民族が母国語ではない英語学習を必要としているのに対し、外国語としての英語を勉強する必要性から解放されました。しかし、失ってしまったものもあります。それは、地域性やコンテキストです。英語は、世界中の人が使う反面、世界で最もローコンテキストの言語になってしまったとも言えます。


本書から引用します。

アメリカ発の顔文字に笑顔の種類が少ないのは、アメリカ人がそうした機微に興味がない、あるいは機微を感じることができないからです。

あぁ、なるほど。日本人がことさら感性豊かなのではない。英語がコンテキスト表現に不得手なのだということが、非常に腹落ちしました。


これから先の10年


よくも悪くも、インターネットは英語を母国語とするアメリカで発明され、英語とともに世界に普及しました。効率重視が得意でも、必然的にローコンテキストにならざるを得ません。


しかし、グローバル化というのは、ローカルの時代とも言えます。個人や地方が国を飛び越え世界と戦える時代です。言わずもがな、普遍的な英語力や教養も必要かもしれませんが、グローバル競争に勝ち残っていくには個々人や地域の個性・特長が重要になってきます。


これまでの20年は、インターネットは世界を効率化してきました。これから先、インターネットは社会に、未来に何をもたらすでしょうか?より効率化された社会でしょうか?個々人や地域の個性・特長が混沌と混ぜ合わさった社会でしょうか?尾原さんの言葉を引用します。

これからの10年で、私たちは第二のカーブをどう曲がっていけばいいのか、本書がそれを考えるときの参考になってくれれば、それに勝る喜びはありません。そして、第二のカーブを曲がった先には、いったいどんな景色が見えるのか。私にはそれが楽しみでしかたありません。

尾原さんの意見にまったく同感です。


-完-


『ITビジネスの原理』の目次

はじめに

第1章 ITビジネスは何で稼いできたのか

 ITビジネスは何を打っているのか

 Googleはなぜ勝ったのか

 課金ビジネスが成功しなかった理由

第2章 ネットが世界を細分化する

 マッチングビジネスの新しいカタチ

 分解されるタスク、分解される価値

第3章 ネットワークとコミュニケーション

 情報の進化(1) フローとストック

 情報の進化(2) 情報の粒度

 モバイルがインターネットを変えた

第4章 消費されるコミュニケーション

 人はなぜ情報を発信するのか

 情報発信のインセンティブ

 コミュニケーションが消費される

第5章 ITの目指すもの、向かう場所

 ハイコンテクストなインターネット

 そしてインターネットは、人を幸せにする装置へ

あとがき


関連書籍『ネクスト・ソサエティ』


『ITビジネスの原理』のこの書評を書いていて、もう一つの本を思い出しました。



晩年のピーター・ドラッカーが1998年から2001年ごろにエコノミスト誌等に寄稿した論文を集め2002年に出版された本です。本書でもインターネットの勃興は触れられておりますが、当時の衆目はテクノロジーに向けられていましたが、ドラッカーはEコマースに注目していました。


またタイトルにある「ネクスト・ソサエティ」、つまり次の社会のあり方を締めくくりとして述べています。これまでの社会は、国家が主導し、次に企業が主導しました。しかし国家も企業も社会課題を解決できませんでした。では、いったい、誰が真に社会課題を解決するのでしょうか?ドラッカーは、NPO、そしてコミュニティだと言います。つまり、伽藍とバザールのどちらかと言えば、バザールです。尾原さんの弁とドラッカーの弁は一致します。




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