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本書はいつものごとく新書サイトを巡回して見つけました。


私学に子どもを通わせる親の身から見て、イギリスのパブリックスクールは理想的な中等教育の場と言えます。パブリックスクールとは、「パブリック」という名に反して、公立ではなく私立です。全寮制の男子校が多いです。


本書の著者:秦由美子さんは、ザ・ナインと呼ばれる9つのパブリックスクールをインタビューしました。当初は断られることのほうが多かったとのことで、その中で9つの学校のインタビューを成し遂げたその努力に敬服します。本書では、その中からイートン、ラグビー、ハロウ、マーチャント・テイラーズの4校を選び、対する日本は、灘、麻布、ラ・サール、甲陽学院の4校を選び、それらを比較することで共通項を炙り出します。一言で言えば、リーダーシップ教育であり、リベラルアーツ教育です。


リーダーシップ教育


パブリックスクールの特徴は、多くの学校で全寮制を採っている点です。日本でも、本書で取り上げられている鹿児島ラ・サール以外にも、函館ラ・サール、愛知県蒲郡の海陽学園、インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢等があります。


一つの学校で複数の寮に分かれており、一つ一つの寮のことを「ハウス」と呼んでいます。一つの「ハウス」では全学年が混ざっています。寝食を共にする中で、上級生が下級生の手助けをすることでリーダーシップを身につけ、また、連帯感・チームワークを培い、友情を育みます。


優秀な上級生はピア・サポーターとしての訓練を受け、他の生徒の手助けをする (P194)(ハロウ校)


一方で、著者は、日本経済の停滞の原因は、リーダーシップ教育の不足にあるのではないかと指摘します。この点は私も同感します。


太田肇の著書『なぜ日本企業は勝てなくなったのか』では、個人の自立(太田はこれを「分化」と呼ぶ)の重要性が説かれているが、同書のなかに出てくるある中学の事例が興味深い。その中学では上級生が下級生の役に立つにはどうすればいいかを考えさせ、実践させるようにしているそうだ。 (P215)


仕事上、イギリス人と接したこともありますし、またイギリス人の著作を読んで感じるのは、イギリスのマネジメント能力の高さです。彼らのマネジメント能力、別の言い方をすればリーダーシップは、パブリックスクールの教育で培われている、と言って間違いないでしょう。


パブリック・スクール(とオックス・ブリッジ)は世界中の人々を魅了している。とくに世界のリーダーと呼ばれる人たちを惹きつけてやまない。彼らが、こぞって子どもを通わせようとするのはなぜなのか。国際語である英語が使えるからというのが理由ではないのは明白だ。英語云々であるならば、大国中の大国であるアメリカで教育を受けるのが合理的だからである。そうではなく、彼らはリーダーを生み出すための教育をイギリスに求めているのである。そのための教育システムがパブリック・スクールで確立されているのは、すでに見てきたとおりだ。 (P234)


リベラルアーツ教育


「リーダーシップ」が教育の目的なら、その方法論が「リベラルアーツ教育」ということでしょうか。本書では麻布の高一・高二を対象とした教養講座の例が紹介されています。


メインとなる「リレー講座」では、2017年度は次の八つが設けられた。

  • 日本を読む、日本を書く
  • 憲法と私
  • 海洋学入門
  • 現代医療について考える
  • 会計とは何かー会計情報の重要性とその危うさについて考える
  • ゲムつく:ゲーム会社をつくろう
  • 雇われるんじゃない。仕事を創るんだ
  • メディアとエンタメの未来予想図Ⅱ (P156)


本書で取り上げられている学校以外にも、御三家と呼ばれる学校(男子校の開成・麻布・武蔵、女子校の桜陰・女子学院・雙葉)や都立一貫校の小石川中高では、リベラルアーツ教育が充実していると感じますし、多くの私学でも建学の精神に基づいてリベラルアーツ教育を実践しているように感じます。小学校に関しも、私の子どもが通っている学校は、総合学習でうまくリベラルアーツ的な教育を採り入れています。


一方、日本全体を俯瞰すれば、中等教育・高等教育はROI偏重・即物的ではないかと指摘をします。その表れの一つが大学進学率への関心の高さです。中学・高校の進学先選定の基準は、教育内容よりもむしろ、大学進学率です。私も親としてそれを気にはしていますので、耳の痛い話です。


また、小学校の総合学習について、たまたまうちの学校がうまくいっているだけなのかもしれません。先生の裁量に負うところが大きく、先生の力量とヤル気次第では、うまくいかない場合もあるかもしれません。


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パソコン、スマートフォン禁止


驚嘆したのは、全寮制の学校の多くがパソコン・スマートフォンを禁止している点です。本書では、イートン校とラ・サールの章で紹介されていました。ネットよりも大切なのは、人間同士の触れ合いですね。


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このご時世にあって、学校や寮ではパソコンやスマートフォンが一切禁止なので、彼らはネットゲームもほとんど知らないわけだ。しかし、寮のなかで「年長者から年少者への指導が行われている」点に強く魅かれた。言ってみれば縦割りの教育制度で、それがリーダー育成にもつながっているように思えるのだ。 (P212)

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著者の提言


本書の締め括りに、著者は二つの提言を述べます。


第一の提言はハウスシステムの導入である。(中略)たとえば、中学一年から高校三年まですべての学年のA組でひとつの寮を構成。大事なのは、学年横断型にすることだ。(中略)

第二の提言は大学入試制度の改革だ。(中略)本当は、大学入試にこそ教養の要素を取り入れるべきではないだろうか。 (P247)


ハウスシステム

ここで言うハウスは、むろん寮のことを指していますが、通学が主の日本の学校では実現性が乏しいため、現実的には先輩と後輩が混ざった学年横断チームの組成が適切です。


明治時代以降の学校制度の最大の欠陥は、同一年齢で生徒を固めてしまったことではないでしょうか。江戸時代の寺子屋には、学年というものはなく、さまざまな年齢の子が一つの教室で学びました。そこでは、年長者が年少者を教えるのは必然でした。ですので、年長者が年少者を教える場を取り戻すことは非常に重要だと私は考えています。


もっとも、中高一貫校の場合、部活動に入れば中学生と高校生が一体となって活動できます。中学一年生から見れば、高校生はずいぶん大人です。大いに刺激を受けるのではないでしょうか。


リベラルアーツ教育

もう一つの大学入試の教養要素の採り入れは、次の大学入試改革で一部実践されようとしているのだと理解していますが、現実問題、あまりうまくいかない気がしています。大量の受験生を捌かなければいけない以上、限界があるからです。


とはいえ、リベラルアーツ教育は絶対に高校生ですべきだと考えています。できれば今後、私自身、高校生のリベラルアーツ教育に関与したいと考えています。


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<本書の目次>

  • はじめに
  • この本で紹介するパブリック・スクールの基本データ
  • 第一章 なぜパブリック・スクールは世界の親を魅了するのか
  • 第二章 存在感を増す日本の私立中高一貫校
  • 第三章 知の体系化 イートン校と灘校
    • イートン校 「骨」のある人間を育てる
    • 灘校 人としての土台作り
    • [コラム1]甲陽学院 それぞれの生徒にそれぞれの居場所を
  • 第四章 権威に屈しない人間 ラグビー校と麻布
    • ラグビー校 慈悲深い知恵をもつ人間を育てる
    • 麻布 真理を尊ぶ反骨精神
    • [コラム2]コレージュ・ボーソレイユ スイスのボーディング・スクール
  • 第五章 ファミリー・スピリット ハロウ校とラ・サール
    • ハロウ校 生徒の幸せを最重視
    • ラ・サール 困っている人に手を差しのべる家族愛
    • [コラム3] マーチャント・テイラーズ校 優れた通学生ハウス
  • 終章 イギリスと日本の名門校から学ぶべきこと
  • おわりに
  • 参考文献

イートン校
credit : Herry Lawford via Wikipedia (License : CC BY)

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