【品川読書会】第36回(2020年8月19日)


お盆明けの読書会。朝7時開始にもかかわらず起きたら6時59分。飛び起きてすぐにZoomにつなぎ、ミーティングに参加する前にキッチンに飲み物を取りに行き、合流。頭が回らない中、司会進行を開始したのでありました。今回の参加者は女性1名男性4名です。


けっこう議論に尽きないテーマの本が多く、1時間では全然足りませんでした。しかししゃべり足りないくらいがちょうどいいですね。


また、私が読書会では必ず選書理由を口にするためか、みなさんも選書理由を説明してくれるようになりました。うれしい限りです。なお、次回開催は9月16日(水)7:00開始予定です。


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紹介を受けた本

『話し下手のための雑談力』


紹介者によると、リモートワークが増えたことでビデオ会議越しでいきなりの初対面機会が増え、打合せ前の雑談の必要性を痛感するようになったことが選書理由です。本書によれば、雑談の持ちネタとして、仕事関連のこと、時事、自身の話などです。


オンライン会議はリアルな面談よりも解像度が悪いため、ストレスを感じるという説もあります。ビジネスシーンの経験でいえば、新規商談で苦労する場面が増えたように感じます。採用面接も苦労するのではないかと思ったのですが、経験者曰く、そんなことはないらしい。オープンソース開発のコミュニティでは、会ったことがないことが前提での協働作業のため、会わないことがボトルネックになることは少ないそうです。


まだまだ話題がつきなかったのですが、終わりそうになかったので次の話題へ。できればリモート越しの雑談・関係構築などをテーマに、私が所属するEGMフォーラムで持ち越し議論したいところです。


『シドニー!』


紹介者は最近シドニーへの訪問機会があったとのことで、シドニーにゆかりのある選書で、オリンピック時の村上春樹のエッセイです。自分と村上春樹は同じ場所で同じものを見ているはずなのに、どうしてもこうも文章表現が異なるのか、驚愕したとのこと。感情をくみ取る力の差なのか、語彙量の差なのか?


村上氏は観察力が優れている反面、オリンピックの開会式では行進の段階で途中で飽きてしまい、帰ってしまったとか。日本の入場を見ていないらしいです。


さて、本書においても、紹介の後に議論を呼び起こしました。表面上読んだ気になっているが理解できていないことがある点、画家は観察内容を絵に描写し、作家は観察内容を文章で描写するという点、読書の要約力、母国語力云々、理工系には文章読解力以外に数学読解力も必要云々。


話が尽きず、口を挟んで私からも意見を言いたかったのですが、時間がどんどん過ぎてしまうため、ぐっと抑えて、次へ。


『創造の方法学』


講談社現代新書ですが、初出が1979年と古いです。『知的複眼思考方法』という本を読んでいたら、参考書籍として本書が紹介されていたとのこと。本の中からの選書ですね。


著者、社会科学分野の研究者です。自然科学では、実験を通じて仮説検証ができますが、社会科学では仮説検証のための実験が簡単にはできません。そのため創造性というものが非常に重要になります。


実は、私自身の読書傾向として、社会科学系の本をかなり読んでいます。仮想本棚を確認してみると、「社会」タグは4番目。社会心理学実験の方法などは、けっこう目から鱗ですね。


『情報と文化―多様性・同時性・選択性』


これは今日紹介受けた本の中で一番の掘り出し物ですね。1986年出版の本で、活版印刷の本です。1990年以降生れの方には想像つかないでしょうが、1990年頃を境に、印刷方法が大きく変わりました。それ以降はアップルのマッキントッシュの登場によりDTPが主流になり、電子的に版下が作れるようになりました。それ以前は一文字ずつ凸型の印鑑のようなもの(活版)を組み合わせて版下作成をしていました。



活版印刷の限界は、文字と図版の組合せが自由にできないことです。昔の本を開いていただくと分かりますが、図版は図版だけのページになっているはずです。ところが本書がすごいところは、本来余白になっているところに図版を埋め尽くしている点。なかなかそのすごさを言葉で言い表せません。


本書は情報密度が濃いとのことで、読み進めるのにも難儀するとのことです。うっ、読みたい…


さて、本書出版の背景ですが、出版社がNTTアドで、出版年が1986年。これでピンと来たのですが、時代背景はNTTの民営化です。NTTが民営化するに際し、NTTが情報と文化の在り方を世に問いたかった、ということでしょうか。NTTの情報論の神髄がここにあるのやもしれません。また、本書を契機に知の巨匠・松岡正剛が誕生したとのことです。


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紹介した本

『ルーズベルトの開戦責任: 大統領が最も恐れた男の証言』


さて、私から紹介したのがこの本です。8月は太平洋戦争関連の本を読むことをほぼ習慣化させています。今年読んだのが『太平洋戦争の新常識』で8月15日に書評を書きました。日米開戦の新たな視座を得ることができたものの、よくよく振り返ってみると、日本人による太平洋戦争評ばかりを読んでいて、アメリカ人側の戦争評をあまり読んだことがありません。探してみたところ数冊出ていて、そのうちの一冊が本書です。


ハミルトン・フィッシュは共和党下院議員で、ルーズベルトとは対立関係にあった方です。タイトルが示すとおり、ルーズベルトの開戦責任を問う本で、太平洋戦争を始めた張本人は日本ではなくルーズベルトだとし、ルーズベルトを徹底的に糾弾しています。現在の安倍内閣に対する野党による批判が、野次の域を脱せず批判になりきれていないのと同様、フィッシュのルーズベルト批判も、批判内容の真贋がよく分からないため、その判断は一旦保留します。


しかし、本人の知覚・認識には嘘はありません。彼が知らなかったということは真実なのでしょう。なにしろ大恥をかいたのですから。では一体何を知らなかったのでしょうか?


知らずに大恥をかいた

12月8日、真珠湾攻撃を受け、ルーズベルトは開戦すべく議会で演説をします。その次に演説をしたのが野党を代表したフィッシュでした。それまでヨーロッパの戦争への参入に断固反対姿勢を示していたフィッシュも、日本の卑怯極まりない真珠湾奇襲攻撃に対し、ルーズベルトの開戦方針に賛成します。かくして議会承認を得て、アメリカは戦争に踏み込んだわけですが、しかし・・・


フィッシュがハルノートによる最後通牒の存在を知ったのはそれから随分あとのこと。それまでルーズベルトは日本との和平交渉の最中にいきなり奇襲を受けたと説明をしていました。


ハルノートが最後通牒だということは、ほとんどの日本人が知っていることです。しかし、フィッシュは知らなかった。知らずに演説をしてしまい、とんだ恥をかかされたことになります。

かくして、フィッシュはルーズベルトを糾弾しますが、アメリカではどのように受け止められているのでしょうね?原書のAmazonレビューを見てみましたが、件数が思いのほか少なく、残念ながら本書『FDR: The Other Side of the Coin』はあまり知られていないのかもしれません。何かの折りにアメリカ人にハミルトン・フィッシュについて論じてみたいものです。



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紹介しなかった本

ビジュアル・シンキング・ストラテジーズ


さて、時間が限られていることもあり、タイムコントロールの観点で発言を控えたのですが、村上春樹氏の観察力の話題を聞いて思い出したのが「ヴィジュアル・シンキング・ストラテジーズ(VTS)」という概念です。観察することが表現力を養うことに繋がるとしています。またこのVTSの概念は『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』でも取り上げられています。




母国語力の形成

また、「母国語力」については、この本を思い出しました。



未成年の出産等、やむにやむえぬ状況で子育てを放棄せざるを得ない場合、児童養護施設が受け皿になってくれますが、児童養護施設で育った子どもは反応性愛着障害、コミュニケーション障害の割合が多いとのこと。保育士や養護施設の職員がいるとはいえ、母親のようにべったりと面倒を見てくれるわけにはいきません。そのことが結局愛着障害となり、母国語能力の形成を阻害します。この本では、セーフティネットとしての児童養護施設は認めつつも、それよりも特別養子縁組を推奨しています。養親とはいえ、母国語の形成に最も影響を及ぼすのは母親なのですから。


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