まえがき
千年読書会の課題図書に指定された本書を読むことにしました。また、先日の朝活読書サロンでも紹介しました。当書評は句読点のない文章となっていますが、脱字ではありません。その理由はあとがきを参照ください。
美少女の滑らかな肌を愛でる谷崎
昨年没後50年ということもあり、谷崎潤一郎の著作権が切れましたこの『春琴抄』も早速青空文庫で読むことができます。本書の出版は1933年で『痴人の愛』の8年後のことです冒頭10ページほど読み旋律が走りました『痴人の愛』と同様に、病的までに被虐的な美少女崇拝の世界が繰り広げられているからです私は、谷崎という人は日本文学史上もっとも美しい日本語で書き著す小説家だと思っていますが、本書でもあますことなく春琴の美しさを著しています。
彼女の生れつきの容貌が「端麗にして高雅」であったことはいろいろな事実から立証される。当時は婦人の身長が一体に低かったようであるが彼女も身の丈が五尺に充たず顔や手足の道具が非常に小作りで繊細を極めていたという。
谷崎はやはり小柄な女性が好きなのでしょうかそういう私もそうなのですが。
今日伝わっている春琴女が三十七歳の時の写真というものを見るのに、輪郭の整った瓜実顔に、一つ一つ可愛い指で摘まみ上げたような小柄な今にも消えてなくなりそうな柔かな目鼻がついている。
このように、身体の細部まで描写をしていくのが谷崎文学の特徴です。
春琴の皮膚が世にも滑かで四肢が柔軟であったことを左右の人に誇って已(や)まずそればかりが唯一の老いの繰り言であった
少女のなめらかな皮膚の描写は、『痴人の愛』にも見て取れますこのような描写が延々と続くわけですが、一言こう言いたくなります「谷崎さん、変態♪」
彼女が小柄だったことは前に書いたが体は着痩せのする方で裸体の時は肉づきが思いの外豊かに色が抜ぬけるほど白く幾つになっても肌に若々しいつやがあった
もう鼻血が出そうです。
あらすじ
あらすじについて少し述べておこうと思います主人公は春琴と佐助。春琴は鵙屋という薬商の娘でお嬢様育ちです9歳で眼の光を失い11歳の時15歳になる丁稚の佐助が春琴の身の回りの世話をするようになります。春琴は三味線を習いやがて師匠が亡くなると20歳には自ら三味線の師匠として独立を果たします。
佐助も最初は独学で三味線を学びますが、やがて春琴に弟子入りします春琴と佐助は、お嬢様と丁稚の関係でありかつ師匠と弟子の関係でもあり、二重の主従関係にありました。佐助は春琴の食事の世話だけでなくトイレへの付き添いや、さらには入浴時の背中流しなどの世話もします春琴の肌の描写がやたらと出て来るのはそういうわけです
主従関係にありながら、そうした身体的接触があったわけですから、やがて男女の仲となり、春琴は妊娠してしまいますしかし二人とも周囲の人たちに対し頑なに二重の主従関係であることに固執し腹の子が佐助の子であることは決して認めようとしませんでしたそして、20年以上もこの主従関係を続けていくことになります。
春琴はわがまま育ちということもあり烈しい性格です。言い寄って来たボンボンにもきびしくあたりケガをさせる始末ですそのように方々に恨みを買っていることもあり、ついには何者かに顔に熱湯をかけられ火傷を覆ってしまいます包帯を巻き誰にも見られまいとする春琴ですがやがて包帯を取る時になると自分の顔を佐助に見られたくありませんその思いを忖度した佐助は、ついには自分の両眼を針で貫きます。
二人の純愛の結実
佐助、それはほんとうか、と春琴は一語を発し長い間黙然と沈思(ちんし)していた佐助はこの世に生れてから後にも先にもこの沈黙の数分間ほど楽しい時を生きたことがなかった
そうなのです佐助は眼を貫いたことにより幸せを手に入れたのです今まで二重の主従関係だったのですが、自らも盲目となることにより初めて主従関係を超え心と心が通じ合う関係を結ぶことができました。
肉体の交渉はありながら師弟の差別に隔てられていた心と心とが始めてひしと抱き合い一つに流れて行くのを感じた
佐助は今こそ外界の眼を失った代りに内界の眼が開けたのを知りああこれが本当にお師匠様の住んでいらっしゃる世界なのだこれでようようお師匠様と同じ世界に住むことが出来たと思ったもう衰えた彼の視力では部屋の様子も春琴の姿もはっきり見分けられなかったが繃帯で包んだ顔の所在だけが、ぽうっと仄白く網膜に映じた彼にはそれが繃帯とは思えなかったつい二た月前までのお師匠様の円満微妙な色白の顔が鈍い明りの圏の中に来迎仏のごとく浮かんだ
本書を読む前から、お嬢様のために眼を貫くというストーリーは知っていましたなんと痛々しい小説なのだろうと思っていたのですが、読後感は意外と爽快ですというのは、眼を貫いたことにより二人の純愛が結実したように思えるからです『痴人の愛』より8年経った後の作品ということもあり、ある意味谷崎の成熟が見て取れました。
佐助は眼を突いた時が四十一歳初老に及んでの失明はどんなにか不自由だったであろうがそれでいながら痒い処へ手が届くように春琴を労わり少しでも不便な思いをさせまいと努める様は端の見る目もいじらしかった
按ずるに視覚を失った相愛の男女が触覚の世界を楽しむ程度は到底われ等の想像を許さぬものがあろうさすれば佐助が献身的に春琴に仕え春琴がまた怡々(いい)としてその奉仕を求め互に倦(う)むことを知らなかったのも訝(あや)しむに足りない。
あとがき
今回の書評は『春琴抄』の文体を真似てみました。『春琴抄』では、句読点を省略して、まるで一つの文章のごとく数行続くことがあります(上の写真参照)。なかなか谷崎のように、流れるような美しい日本語を書くことができませんが、この本を読んだ時も、『痴人の愛』を読んだ時も、自らの日本語の表し方が、どこか谷崎の影響を受けているように感じます。
読み終わった後、山口百恵主演の映画の存在を知りました。山口百恵の肌も露わになるのでしょうか。。。。
谷崎潤一郎の本
読んだ
- [読書]日本三大悪女その1“ナオミ”~『痴人の愛』より
- 小嶋陽菜(AKB48)版『痴人の愛』キタ――(゚∀゚)――!!(2016年2月19日追記)
セックスレスの夫婦。夫は外で女と遊び、妻は浮気をする。
異才谷崎の文章術の本。
読みたい
読みたい、と言ったものの三巻構成!
「鶴子」「幸子」「雪子」「妙子」四姉妹の物語。鶴子、幸子は既婚、雪子は30歳を過ぎて独身、妙子は20代半ばで自由奔放、複数の男と遊ぶ女。幸子は、谷崎の妻、松子がモデルとのこと。
女性二人の同性愛の話。
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