女子学生、渡辺京二に会いに行く (文春文庫)
渡辺 京二, 津田塾大学三砂ちづるゼミ
文藝春秋 ( 2014-12-04 )
ISBN: 9784167902605

<目次>
  • 文庫版まえがき 渡辺京二
  • はじめに 三砂ちづる
  • 1 子育てが負担なわたしたち
  • 2 学校なんてたいしたところじゃない
  • 3 はみだしものでかまわない
  • 4 故郷がどこかわからない
  • 5 親殺しと居場所さがし
  • 6 やりがいのある仕事につきたい
  • 7 自分の言葉で話すために - 三人の卒業生
  • 無名に埋没せよ 渡辺京二
  • おわりに 渡辺京二
  • 文庫版あとがき 三砂ちづる


歴史ノンフィクション作家・渡辺京二氏、『オニババ化する女たち』の著書津田塾大学三砂ちづる教授と、そのゼミ生・OGの対談本。


三砂先生を知ったきっかけは、Yasmineこと川原さんからのおすすめ。仕事と育児の両立の難しさについて、Facebook上でやり取りしていたことがきっかけだったと思います。三砂ゼミというのは「国際ウェルネス」を扱ったゼミだとのことだけれども、ゼミ名を見ても、なんだかよく分からない、説明に詰まることがあるようなことを述べておりましたが、ざっくり言うと、これこそ「社会学」ではないでしょうか。社会とはどのように成り立っているのか?を仮説・検証していくという点で。

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本書の構成


章立ては、6人のゼミ生の論文と、卒業生の言葉を軸、渡辺京二氏がコメントしていくというもの。対談の収録なのだけど、ほとんど渡辺氏が一方的に持論を話している。ご本人も自嘲気味に自説は必ずしも正しいとは限らないと述べているのだけど、なかなか客観的で的確なコメントであるように思います。


渡辺氏のその客観的なものの見方はどこから来るのだろう?と思ったら、小学校から高校ぐらいまで、満洲にいたとのこと。ははぁん、なるほど。外地にいたがゆえに日本を客観視する洞察力が身につき、『逝きし世の面影』という良書に結実したのであろうと思います。


本書で取り上げられている三砂ゼミの6名の論文タイトルを見ると、この本で何を取り上げられているのかが分かります。

  • 子育ては福祉の対象か?-公的領域にとりのこされる子どもたち 須藤茉衣子
  • 学校は権力装置か - フーコーから考える学校教育の可能性 大石茜
  • 「発達障害」という名前をつける - その理解と責任について 小野寺みずほ
  • 帰国子女の“喪失”と“豊穣” - 一三人の海外在住体験から学ぶ 大木ゆりあ
  • 「国際協力」へ向かうきっかけとは - 関係者のライフヒストリーからの考察 山際恵
  • 社会福祉、看護系の領域の特殊性と矛盾 - やりがいはある、でも離職する 余合真知

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子育てと仕事の両立についての課題設定


一つ目の論文は、まさに子育てと仕事の両立の話。仕事をしていく上で「子育てが負担」とか、「子育てによって仕事が犠牲になる」といったような世評に対し、渡辺氏は真向から全面否定。子育てといのは、本来もっと本能的なものであり、無情のもののはずなのに、どうも本能を失ってしまっていないだろうか?

(動物行動学者のコンラート・ローレンツ) 生物の持っている本能が表に出てくるようなきっかけがいると言っている。外界との接触で、そういう引き金によって、自分の中にあるものが触発されるようなしくみになっている。そして、そういう触発のチャンスを失うと、本能が現れそこなうのです。生物だって、子育ての本能というのがある。たとえば鳥の場合は雛から育てていく過程の中で、自分の子どもに対する愛情というものが触発されるようなメカニズムがあるそうです。それは外界とのある接触によって生じてくるんで、それが触発されるようなチャンスを逃したならば、生物においてもそういう本能は現れてこないんです。 (P43)


仕事で成果を出して出世して「自己実現」を果たすのに、「子育てが負担」なんていうのは、ちゃんちゃらおかしくないだろうか?

現代というのはすべての人間がある才能を持っていて、自分の才能を発揮しなくちゃ納得できないというふうな、自己表現をしなく納得できないという時代になってきているんですね。 (P42)

親だからかわいがらなくちゃいけない、ということじゃないんだよね。自然に子どもが生まれちゃったら、育てているうちにかわいくなるんで、そこになんで問題が生じるのかな。子どもを作ったら仕事の障害になるとか、子どもがいるために自分がしたいことができないとか、子どものほうじゃ、私はいてはいけないのかなと思っちゃうなんて、とんでもない話だよ。自然なことから外れていることなんだよ。

自分の自己実現という誤った目標、自己実現というのは社会的に出世するということなの、あるいは自分が有名になるということなの。そういうことの妨げに子どもがなるというのは、人間として生まれた本当の喜びはどこにあるのか、ということを見失っているの。妙な自己実現のイデオロギーにとらわれるから、そうなってしまうんじゃないでしょうかね。 (P241)


これから社会へ出ようとしている女子学生たちが感じる、この社会の生きにくさみたいなものを、渡辺氏はばっさりと切っていきます。私にはかなり納得いく部分が多いのだけど、当事者の三砂ゼミ生たちは、腹落ちしたのだろうか?という点が少し気がかりではあります。


長女がこの4月に大学生になったこともあり、本書の三砂ゼミ生たちの悩みは、私にとっても決して他人事ではありません。

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子育てと仕事の両立に関する課題設定

関連書籍


渡辺京二氏のベストセラー。幕末期に訪れた外国人目線の日本を紐解く。元来、日本人とは何だったのだろうか?



黒船が来航する前に、ロシア・アイヌ・日本の三国の関係を紐解く。この分析に脱帽。


三砂ちづる先生のベストセラー本。出版当時、大変な話題になったらしい。



『女子学生、渡辺京二に会いに行く』と同等の視点の本。バリキャリよりも、仕事はほどほどにという姿勢のワーキングマザーのほうが、結局働き続けられているという現実があります。子育てをしながら仕事に邁進過ぎると、まず、途中で折れてしまいます。



一方で、子育てもそんなに頑張らなくていいよ、という本。「自己実現をしなければならない」というのが誤った固定観念ならば、「しっかりと子育てをしなければならない」といのも誤った固定観念と言わざるをえないと、私はこの本を読んで思いました。




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