本ブログ記事の目次


前書き

本書は私の友人の倉貫さんの著書です。倉貫さんとの出会いは、2009年、EGMフォーラムの会合でした。本書でも出てきますが、ちょうど社内ベンチャーを立ち上げたころではないかと思います。その後、事業を買い取り、スピンオフをしたのは、本書でも述べられているとおりです。


すでに複数の友人・知人がブログで書評を書いており、またすでに出版から時間が経過してしまったことから、あらためて書評を書くまでもないと思っていたのですが、読んでみたら、感動した!ということで、やっぱり書くことにしました。


<『「納品」をなくせばうまくいく』の目次>

はじめに

1章 常識をくつがえす「納品のない受託開発」とは

2章 時代が「納品のない受託開発」を求めている

3章 顧客から見た「納品のない受託開発」の進め方

4章 事例に見る「納品のない受託開発」

5章 「納品のない受託開発」を支える技術とマネジメント

6章 エンジニアがナレッジワーカーになる日

7章 「納品のない受託開発」をオープン化する

おわりに


前書き追記

一旦最後まで書いた後に書いています。他の方の書評を読むと、このブログ記事はかなり偏っていて、ほとんど本書の内容に触れていないし、「書評」になりきれていません(汗。しかも長文になってしまいましたので、記事目次をつけました。本ブログ記事では、まったく別の角度でハイライトしています。本書の内容を知りたい方は、巻末に著者倉貫さんのスライドを貼り付けておきましたので、そちらを参照ください。


IT業界の構造課題


私ごとになりますが、少し時間を遡ってお話します。2010年-2012年の間、IT業界※の業界団体である一般社団法人情報サービス産業協会の白書編集分科会の委員を務め、情報サービス産業白書の編集に携わっていました。当時の白書のテーマは、「業界の構造改革とビジネスモデル転換」です。背景に、このままではIT業界はまずいんじゃないだろうか?という危機感があったためです。受身(受託開発)で、労働集約型で、多重下請け構造で下請けが疲弊し、顧客に言われっぱなしで、しかも国際競争力のない産業、というわけです。この業界構造が、世間で3Kであるとかデスマーチと揶揄される所以です。


※IT業界は大きくわけて、法人向けサービスを提供している情報サービス産業と、インターネット上のサービスを提供いているインターネット産業に分かれますが、ここでは情報サービス産業のことを指します。


情報サービス業界の5つの構造改革


情報サービス産業白書は、このIT業界は次の5つの転換が必要であることを提言しました。


  1. 受身の受託開発型から、顧客のニーズ先取りのパッケージビジネス・サービス提供型への転換
  2. 労働集約型から知識集約型への転換
  3. 多重下請構造から水平分業型への転換
  4. 顧客従属型からパートナー型への転換
  5. 国際競争力のない国内産業から国際競争力強化


白書編集委員メンバー総勢で、この転換を先行している企業にインタビュー先を探し、事例として掲載しようということになり、私から次の3社を提案し、実際に事例が掲載されました。フューチャーセンターの先駆的企業・東京海上日動システムズ、外資系企業ですが創業当初からグローバル展開を視野に入れた製品開発を行っていたAtlassian、そして、「納品のない受託開発」を標榜し、従来の受託開発からの脱却を図ろうとしていたソニックガーデンです。


業界課題をクリアした先駆事例


倉貫さんが白書を意識していたのかどうか分かりませんが、結果的に見ると、5つの構造改革課題のうち、国際競争力強化以外の4つの課題をクリアしているのではないかと思います。


納品をもってゴールとする受託開発ではなく、納品のないサービス提供ということで1つ目の課題はクリアし、技術の標準化・社員の多能工化を図り、ノー残業で最短の成果を収めることで2つ目の課題をクリア、クライアントと直接契約し、また水平分業のギルドを組成するという点で3つ目の課題をクリア、そしてソフトウェア開発のみを請負うのではなく、事業パートナーと認められているということで4つ目の課題をクリアしています。


そして、おそらく5つ目もクリアしている可能性があります。ソニックガーデンが自社の開発標準としている開発言語Ruby、Ruby on Railsは、既に海外でも定評のある日本発のオープンソース・ソフトウェアです。Ruby、Ruby on Railsでの高い生産性が実現できていれば、国際競争力を手に入れたことになります。


課題クリアの要諦は「人材」


ソニックガーデンが課題クリアした要諦はなんだろうか?ということを考えると、つまるところ、「ビジョン」と「人材」に尽きるのではないかと思います。「ビジョン」は、課題クリアのところで述べられていると思いますので、ここでは「人材」について触れたいと思います。他のIT企業がいざ真似しようと思っても、簡単に真似できないとすれば、「人材」です。


オーナーシェフ

「納品のない受託開発」を担う人材は、プロのエンジニアです。本書では「オーナーシェフ」にたとえています。従来のIT企業(SIer)は総合スーパーのようなもの。あるいはチェーン・レストランかもしれません。チェーン店の社員は厨房に立つことはできても、「オーナーシェフ」になれるわけではありません。独自の料理の技、料理哲学が必要ですし、マネジメント能力も必要です。


結婚

ソニックガーデンでは、社員採用におそろしく時間をかけているとのことです。それは採用を結婚と捉えているからです。一般的には、新卒採用は3回ぐらいの面接で内定が出ると思います。しかし、採用を結婚と考えれば、3回のデートだけで結婚まで踏み切ることは普通はありません。「納品のない受託開発」は、高度なエンジニア能力とマネジメント能力が必要です。その能力・適性の見極めるために、ソニックガーデンでは時間をかけているとのことです。


「納品のない受託開発」への足がかり


以上を考えると、「納品のない受託開発」ができるエンジニア能力、マネジメント能力は一足飛びには身につかないようです。


私自身はシステムエンジニアではありませんが、社外の勉強会にはよく参加しているほうです。自分、自社にはない知識・ノウハウなどの暗黙知を身に着けるためです。社内にいただけでは、自分の能力が世間でどの程度通用するか、測ることができません。


幸い、インターネットが普及して以降、IT勉強会、ハッカソン、オープンソースプロジェクトへの参加、そして、クラウドソーシングなど、システムエンジニアの方には自らの腕を社外で試す機会はたくさんあります。「納品のない受託開発」への足がかりは、これらの社外機会を活用し「足るを知る」ことではないでしょうか?


『「納品」をなくせばうまくいく』のスライド


本書著者・倉貫さん自身によるスライドです。本書の内容がコンパクトにまとめられています。



関連リンク・関連書籍


ソニックガーデン&倉貫さん関連


書評読み比べ


関連書籍

情報サービス産業白書2011-2012
情報サービス産業協会
日経BP社 ( 2011-10-06 )
ISBN: 9784822262617

私が編集に参画した白書。


アジャイル開発といえば、この方。ナレッジマネジメントの大家・野中郁次郎先生との共著。「納品のない受託開発」も、ナレッジマネジメントの実践形のひとつと言える。



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