私の本業のひとつは、投資回収のマネジメントです。
過去の累積損失(サンクコスト=埋没コスト)にとらわれず、将来産み出すキャッシュフローに着目すべきではないかと常々考えています。
投下資本の元を取れというのは、感情的には分かるのですが、過去の累積損失=サンクコストは、取り返しがつきません。ですのでそれを一旦捨て置き、将来産み出すキャッシュフローのみに着目するという考え方です。模式的に例示します。
計算式は以下のようになります。
- 累積CF=前年の累積CF-当年の投資CF+当年の回収CF
表①では、1年目に大きな投資をし、2年目に回収を開始します。3年目に単年度で黒字(回収CF>投資CF)となり、5年目に累積CF黒字となります。往々にして、当初の計画というのはこのように立てられます。10年目では再び回収CF<投資CFとなるため、このタイミングで事業継続可否の判断を行うことになります。
しかし、実際にはうまくいかないケースもあります。回収開始が1年遅れ、かつ、回収金額が当初計画の半額となる場合です(3年目に20を回収予定だったのが、4年目に10しか回収できない)。表②に図示します。
この例だと、累積CFは永遠にプラスになりません。CFがプラスにならない事業は中止すべきなのでしょうか?
過去3年間の累積赤字のことを考慮にいれればそうなのですが、過去の赤字の元を取ることはしない、と一旦リセットしてはどうでしょうか?そうすると、表③のようになります。
一般的には、3年の経験を踏まえれば、この計画は、当初計画と比べ精度が高いことが多いです。過去の累積損失にとらわれず、将来産み出すキャッシュフローに着目すれば、3年目時点の事業継続可否は、GOということになります。
もちろん、ここでGOの判断をした場合、社内のほか部署より、妬みの声が出るでしょう。そのような妬み・恨みにとらわれず、ドライな意思決定を経営者ができるかどうかが、ポイントです。
なぜ太平洋戦争は負けたのか?
私は、太平洋戦争は、過去の投資に囚われてしまったために負けてしまったと思います。日中戦争での10万人以上の死者に申し訳が立たないとして、対米戦争を始めてしまいました。しかし結果的に、さらに300万人の死者を出すことになってしまいました。10万人の死者は取り返しがつかないと割り切り、将来の損失を最小限に食い止めるような意思決定ができませんでした。
これは多くの日本企業の温情的な中途半端なリストラにも言えるのではないでしょうか?
参考書籍
- 【書評】『結果を出すリーダーはみな非情である』①~サンクコスト(埋没コスト)・サンクタイム(埋没時間)は切捨てキャッシュフロー重視
- 【書評】『結果を出すリーダーはみな非情である』②~は「選択と集中」は逃げの言葉
- 【書評】『結果を出すリーダーはみな非情である』③~戦略は組織に従う
<太平洋戦争における意思決定の失敗を描いた本>
戸部 良一, 寺本 義也, 鎌田 伸一,
杉之尾 孝生, 村井 友秀, 野中 郁次郎
中央公論社 ( 1991-08 )
ISBN: 9784122018334
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