おむつをはいた赤ちゃん

Courtesy to GoodFon.su


あるフューチャーセッションで、オムツを題材にシステムズ・エンジニアリングについて語ろうと思います。なぜなら、システムズ・エンジニアリングという概念がフューチャーセンターのキーイネーブラーになると考えているからです。対話だけでなく、対話から現実解を生み出す価値創造プロセスの概念だからです。


そして、なぜ題材がオムツなのか。それは、私がオムツの生産・販売に携わっているわけでもないのに、人より少しだけ、オムツに詳しいからです。P&Gまたはユニチャームのオムツを13年間使い続けたからです。もちろん、子ども用ですが、将来は大人用のお世話になるかもしれません。


<目次>

  1. システムズ・エンジニアリングとは
  2. P&Gの考えているシステムズ・エンジニアリング
  3. 機能的価値・情緒的価値・精神的価値
  4. 現実世界と概念世界を往復することが不得手な日本人
  5. 現実世界と概念世界を往復するための処方箋


システムズ・エンジニアリングとは


システムズ・エンジニアリングというのは、元々欧米の航空宇宙産業で発展してきた概念です。私はこの概念を社会人1年目となる1992年に知りました。1990年代にもいくつかの企業で取り組み、成果も出していたのですが、ほかの手法ほどには、その概念は日本に普及しませんでした。しかし、ここ数年、日本でも自動車産業において注目されはじめつつあります。


航空宇宙産業や自動車産業でのエンジニアリング手法をオムツに適用って、何を大げさなことを言っているのか?と思うかもしれません。しかし、オムツ世界最大手のP&Gが、そう言っています。


以下のリンクは、2014年1月27日-28日にロサンゼルスで開催されたINCOSE(インコゼ)のワークショップです。P&GのEric Berg氏がシステムズ・エンジニアリングについて語っています。Berg氏の発表資料より2ページほどスライドを抜き出してみました。




P&Gの考えているシステムズ・エンジニアリング


製品単価と販売個数

Quote : Eric Berg, P&G


こういったスライドを見ると、欧米人は概念化がうまいなとつくづく感じます。スライド内の棒グラフは、左から潜水艦(単価10億ドル)、飛行機(1億ドル)、ジェットエンジン(1000万ドル)、CTスキャン(100万ドル)、大型の農業機械(10万ドル)、自動車(1万ドル)、家電(1000ドル)、薬(100ドル)、消費財(10ドル)と並んでいます。システムズ・エンジニアリングは、左端の産業から徐々に発達してきたのですが、最終的には消費財に至るだろうというのがこのスライドの意味するところです。



Systems_Engineeringの概念図

Quote : Eric Berg, P&G


こちらのスライドでは、上からStakeholders、Needs、Features、Functional Roles、Equipmentとあります。

これを意訳すれば、次のようになるでしょうか。


  • 社会課題や潜在ニーズ(Stakeholders)
  • 顕在化されたニーズ(Needs)
  • 特徴・要求仕様や定性要件(Features)
  • 機能的要件や定量要件(Functional Roles)
  • 生産要件や実現手段(Equipment)


つまり、社会課題や潜在ニーズから、機能的要件や生産要件を導き出す手法・概念が、システムズ・エンジニアリングです。


機能的価値・情緒的価値・精神的価値


システムズ・エンジニアリングという概念は、たしかに欧米人の発明かもしれませんが、実は1994年の時点で、同様の概念を提唱している日本人もいました。当時、博報堂に勤務していた青木定茂氏です。現在は同志社大学社会学部の教授をされているようです。青木氏は「機能的価値」、「情緒的価値」、「精神的価値」という「三層モデルプランとブランド価値の構造」を提唱しました。


3層モデルプランとブランド価値の構造

出典:『文脈創造のマーケティング』


この図の意味するところは、現実世界で機能や実現方法を考えるのではなく、より概念的・象徴的にとらえて精神的な価値まで一旦昇華させ、そこから初めて現実世界に舞い戻り、精神的価値を満たす機能的価値をデザインするという価値創造プロセスです。このプロセスは、さきほどのP&GのBerg氏のStakeholdersからFunctional Roles/Equipmentまでのプロセスと同じ流れを指ししめすものと言えます。




現実世界と概念世界を往復することが不得手な日本人


さて、問題なのは、この現実世界と精神世界・概念世界の行ったり来たりが、実は日本人は不得手なのではないかという点です。ソフトウェア産業が欧米に押されっぱなしなのも、概念化が不得手であることが理由として挙げられます。


私は大学時代に物理学を専攻していたこともあり、日本人の中でも比較的物事を概念的に捉えるクセがあります。また、欧米のソフトウェア会社に日本の要求仕様を伝えることを生業としていた折、欧米人と日本人の概念化能力の差を感じる場面にたびたび遭遇しました。


なぜ日本人が概念化が苦手なのかがずっと引っかかっていたのですが、7年前に偶然、ある本でその理由を見つけました。そのまま引用します。


よく知られているように、ヒトの脳は「右」と「左」に分けることができる。左脳では論理を処理し、右脳では情感を処理する。右脳部分は情感の入る余地がおおいにある概念の創造に大きく貢献し、左脳部分は論理に左右される現実の創造を決定する。欧米人は言語の構造が、母音のみでは意味をもたないことから、日常的にその母音は非論理的内容を担当する右脳で判断している、といわれる。


それにたいし、日本語は母音のみでも意味をもつので、右脳をあまり使う必要がない。この点からすると、欧米人が概念の創造を得意とするのは、日本人より右脳部分がよく使われているから、ということになる。逆に、左脳利用に偏っている日本人は、生まれつき概念の創造は不得手である。その代わり、現実の世界をみながら工夫を重ねていく創造性は得意なのだ。


図示すると以下のようになります。


日本人と欧米人の創造性

出典:『なぜ日本車は世界最強なのか』三澤一文(著)


この原出典もまた、1994年です。この図でなぜ日本人がアニメが得意なのかも説明がつきます。欧米人の描く動物キャラクターは妙にリアルでかわいくありませんが、日本人の描く動物キャラクターは、ハローキティにしろ昨今のユルキャラにしろ、完全に創造の産物で現実感がありません。欧米人は、現実世界と概念世界を区別をしませんから、動物キャラクターを描くとどうしてもリアルになります。一方で、日本人は現実世界と概念世界を分断し、概念世界だけで描くから、リアリティを排除した動物キャラクターを描くことができます。


問題の核心はそこなのです。


現実世界と概念世界を往復するための処方箋


解かなければならない現実世界の社会課題が複雑であればあるほど、想像性と創造性を発揮しなければなりません。そのためには、現実世界の事象・課題を一旦概念世界へと昇華させる必要があります。フューチャーセッションにおけるオープンマインドな対話の場こそが、現実世界から概念世界へと昇華させるキーイネーブラーになります。そしてさらに、概念世界から現実世界へ舞い戻ってくる方法論・考え方がシステムズ・エンジニアリングです。



左脳だけでなく右脳を活かす


21世紀に入り、ダニエル・ピンクやケン・ロビンソンや多くの知識人・エバンジェリストと呼ばれる人たちが、左脳だけでなく右脳を使え、想像性と創造性を育め、ということを提唱しだしたのは、社会が複雑化し、より右脳を、より創造性を発揮していかなければならないという証拠ではないでしょうか。


なので、答えは明確です。システムズ・エンジニアリングと呼ぶとなにやら難しく聞こえるかもしれませんが、その真髄は、右脳を鍛え、右脳を活かす場を創り、未来に向けて社会課題を解決する道筋にあります。これは新しい概念ではなく、1990年代を通じて、欧米企業と一部の日本企業ですでに実践されてきたことなのです。



才能を引き出すエレメントの法則
ケン・ロビンソン, ルー・アロニカ
祥伝社 ( 2009-07-28 )
ISBN: 9784396650445

才能を磨く ~自分の素質の生かし方、殺し方~
ケン・ロビンソン, ルー・アロニカ
大和書房 ( 2014-01-24 )
ISBN: 9784479794288


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