<目次>
  • 第Ⅰ章 暗黙知
  • 第Ⅱ章 創発
  • 第Ⅲ章 探究者たちの社会


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「知識」「ナレッジマネジメント」系の基礎的な本は何だろう?と思いを巡らせてみたところ、まっさきに思い出したのが、『思考の整理学』とこの『暗黙知の次元』です。


わずか3章構成150ページ弱の本書は、オーストリア=ハンガリー帝国出身の物理化学者マイケル・ポランニー(1891~1976年)によるもので、彼は化学の専門家でありながら、社会学者に転じたのでした。


この『暗黙知の次元』の日本での初出は1980年、そしてこのちくま学芸文庫版の出版が2003年。原題『The Tacit Dimension』を検索してみると、英語版は1966年に出版されていることになります。Wikipediaによると、社会学者への転向が1949年。化学の素養をベースに社会学的アプローチを吟味・分析・醸成したのが1949年から1966年の間だったのでしょう。


本書で秀逸なのは、言うまでもなく、「暗黙知」、「創発」という二つの概念を提唱したことにあります。今回、8年ぶりの再読を試みたのですが、本書は抽象度が高く、やはり難解で、すうっと入ってきません。感覚的に半分ぐらい、何を言っているのか分かりません。それでも、分かっている部分を中心に考察できます。


「私たちは言葉にできるより多くのことを知ることができる。」


本書で一番琴線に触れたメッセージの一つが、この「暗黙知」の定義です。人の顔をどのように見分けるのか、スポーツにおいて、個々の筋肉をどのように動かしているのか?、職人の技はどのように体得できるものなのか、これらのことは言語化することができないのです。


ある人の顔を知っているとき、私たちはその顔を千人、いや百万人の中からでも見分けることができる。しかし、通常、私たちは、どのようにして自分が知っている顔を見分けるのか分からない。だからこうした認知の多くは言葉に置き換えられないのだ。 (P18)


この「暗黙知」の考え方と「ラテラルシンキング」の考え方を合わせて考えると、「ひらめき」とは何かを洞察することができる、と考えています。


【書評】『ずるい考え方 ゼロから始めるラテラルシンキング入門』 : なおきのブログ

理詰めのロジカルシンキングでは、論理的に正しくてもアイデアが狭まっていってしまいます。アイデア発想、イノベーションには、常識や既成の考え方に囚われない広い範囲での思考が必要です。そういう点で、水平思考=ラテラルシンキングに依然から気になってはいたのですが、読んでみて合点が行きました。

naokis.doorblog.jp


また、人工知能が進展したとき、人間が勝るのは、この言葉にならない部分です。『〈インターネット〉の次に来るもの』では、「答え」より「質問する力」「問う力」がよりいっそう重要になるだろうと説きます。


【書評】『〈インターネット〉の次に来るもの―未来を決める12の法則』その7(問うこと) : なおきのブログ

Googleが、インターネットが、人工知能が答えられないような質問は何でしょうか?その問いは、禅問答に近づいていくと感じるのは気のせいでしょうか?スティーブ・ジョブズは敬虔な禅仏教信者で、よく坐禅をしていました。

naokis.doorblog.jp


「創発」の定義


そして、次に琴線に触れた言葉がこれです。


上位レベルは、下位レベルの諸要素をそれ自体として統括している規則に依存して、機能する。しかし、こうした上位レベルの機能を、下位レベルの規則で説明することはできない。 (P65)


なお、Wikipediaでは以下のように説明しています。


部分の性質の単純な総和にとどまらない性質が、全体として現れること


これだと抽象的過ぎて何かよく分かりませんが、『暗黙知の次元』では、1)教会のある都市の設計、2)文学作品の創作、3)人間の進化について、どのように創発が起きているかを説明しています。


煉瓦焼職人は教会の建築のことは知らない。教会の建築家は煉瓦の焼き方を知らなくても教会を建築することはできる。都市設計家は、煉瓦の焼き方も教会の建築の仕方も知らないけど、それらを調和させた都市の設計ができる。


同様に、文学作品に発声・言葉・文法・修辞学が必要だが、それらが分かったところで優れた文学作品ができるわけではない。人間は、発生学的機能、植物的機能、動物的機能を兼ね備えているが、それらがあれば人間になるわけではない。


ポランニーは科学界に重要なメッセージを突きつけたと思っています。科学も同様に重層的に成り立ってはいますが、下位の科学が解明されたからといって上位の科学が自動的に決まるわけではありません。これだけ物理学や化学が分かったというのに、人間の脳も知性の在り処かも、まだまだ謎が多いです。ポランニーが「暗黙知」や「創発」を洞察できたのも、いくら物理や化学を修めても一向に人間や社会の課題解決ができない葛藤を感じたからなのかもしれません。物理学を修めた私にはその葛藤がよく分かります。


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『暗黙知の次元』



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