谷崎潤一郎。大正2年撮影。

谷崎潤一郎。大正2年撮影。

image via Wikipedia lic:P.D.




先日、谷崎潤一郎がノーベル文学賞候補だったと報じられました。偶然にもちょうど本書を読んでいました。谷崎潤一郎といっても、名前は知っているものの、どんな世界を描いたのか、ご存知ない方も多いのではないでしょうか?一昨年、谷崎の代表作『痴人の愛』を読むまで、谷崎の世界を知りませんでした。しかし、知ってしまった以上、その世界観に魅了されてしまいました。


谷崎潤一郎は耽美派の作家と呼ばれます。分かりやすくいえば、谷崎が描いたのは官能・性愛の世界です。単なる性愛ではありません。谷崎以上にかように美しく官能の世界を描いた人物は、他にいないのではないでしょうか?もちろん、私の数少ない読書の中での評価ですので、谷崎以上に美しく官能の世界を描く作家をご存知の方がおられましたら、こっそり教えていただけますようお願いいたします。


現在まで谷崎の著書で読了したのは、わずか三冊です。『痴人の愛』、『蓼喰う虫』、そして『文章読本』です。これから、『細雪』、『春琴抄』、『卍』なども読んでみたいものです。


谷崎潤一郎のこと


本書は、谷崎潤一郎の入門書としてよいかもしれません。この『文豪ナビ』シリーズは、山梨県立文学館を訪問した際に知りました。ほかにも三島由紀夫(既読)、夏目漱石、芥川龍之介、川端康成、太宰治、山本周五郎があります。



本書で理解したことをベースに谷崎潤一郎をざっと紹介すると、こんなかたちになるかと思います。


生まれは1886年、没年は1965年、当時としては大往生の79歳で亡くなりました。大学は東京大学を中退しています。文壇デビューは在学中の1909年でした。師匠筋に永井荷風(7歳年長)、学友に和辻哲郎(3歳年下)がいました。


夏目漱石や芥川龍之介の活躍時期がわずか10年、三島由紀夫が20年なのに対し、谷崎潤一郎は約50年、文筆活動を続けました。1923年の関東大震災を契機に関西に逃れ、西洋化する東京では失われつつあった古き日本を関西に見出します。1927年に6歳年下の芥川龍之介と「筋のある小説、ない小説」について論争を交わしますが、その直後に芥川は自殺してしまいました。


谷崎潤一郎の女性遍歴


谷崎潤一郎について特筆すべきことは、その女性遍歴でしょう。現代でも芸人は芸の肥やしにすることを理由に数多くの浮き名を流します。それは、官能の世界を描いた谷崎にも当てはまります。


谷崎は、生涯で三人の妻を娶りました。一人目が石川千代(婚姻期間は1915~1930年)、二人目が古川丁未子(1931~1935年)、三人目が森田松子(1935年~)です。松子との出会いは1929年とのことで、ひょっとすると、同時に3人の女性と恋愛関係にあったのかも・・・と妄想が膨らみます。


また、石川千代との婚姻期間中、千代とは別居し、千代の妹せい子(当時15歳)と同棲関係にあったとのこと(その時谷崎35歳)。そのせい子は、後に『痴人の愛』のナオミのモデルになったとのことなのですが・・・なぁんだ、15歳の少女に溺れる『痴人の愛』の主人公譲治のモデルは、谷崎潤一郎自身だったのか、と腑に落ちた次第。


そして、最後にして最愛の妻となるのが17歳年下の松子。谷崎は生涯に40回も引っ越したとのことですが、関西時代に住んでいた場所に「倚松庵」というのがあります。「松に寄る庵」ということなのですが、松子に甘え、松子に寄りかかりたいという気持ちが表れているとのこと。


好きな女に甘えたいという気持ち、たいへんよく分かります。分かりますよね?


谷崎が描いた女


桐野夏生評

本書の中で、女流作家の桐野夏生が寄稿しています。

谷崎は一貫して貞女を書かなかった。むしろ、女の欲望を肯定し、女の欲望によって男が変貌する様を書いた。

うーん、なるほど、谷崎評として、これ以上の言葉はないかもしれません。本ブログ記事のタイトルに採用させていただきました。


島内景二評

また、文芸評論家の島内景二も寄稿しています。『源氏物語』には「雨夜の品定め」という女性論があるとのことで、女性を「上の品」、「中の品」、「下の品」と三つに分類しているとのこと。『源氏物語』の中では、光源氏の憧れの的の藤壺が「上の品」になります。この女性論を谷崎潤一郎の愛した女性や描いた女性に当てはめると、松子夫人は「上の品」で、『痴人の愛』のナオミは「下の品」になるとのこと。そう解説した上で、島内は谷崎を次のように評価しています。

谷崎は、平凡な家庭生活から自分の「異様な芸術」が生まれないことを知っていた。とてつもない高嶺の花か、とんでもない魔性の女からしか、芸術的インスピレーションが湧かなかったのだ。

いやぁ、まさにそのとおりです。先の桐野夏生評と組み合わせると、谷崎は女の魔性を肯定し、その女の魔性に狂わされる男を描いたことになります!魔性の女、たまりません!


『文豪ナビ 谷崎潤一郎』の<目次>

  • 超早わかり!谷崎作品ナビ
  • 10分で読む「要約」谷崎潤一郎(木原武一)
    • 『痴人の愛』
    • 『細雪』
    • 『鍵』
  • 声に出して読みたい谷崎潤一郎(齋藤隆)
  • 私、谷崎ファンです
    • 本上まなみ「猫と庄造と二人のおんなと私と谷崎潤一郎」
    • 桐野夏生「婚姻を描く谷崎」
  • 評伝 谷崎潤一郎(島内景二)
  • コラム・谷崎好み
    • ①猫
    • ②関西
    • ③文章と装丁
  • 主要著作リスト
  • 年譜


谷崎潤一郎の本

読んだ

痴人の愛 (新潮文庫)
谷崎 潤一郎
新潮社 ( 1947-11-12 )
ISBN: 9784101005010

痴人の愛 (宝島社文庫)
谷崎 潤一郎
宝島社 ( 2016-02-19 )
ISBN: 9784800252371


蓼喰う虫 (新潮文庫)
谷崎 潤一郎
新潮社 ( 1951-11-02 )
ISBN: 9784101005072


セックスレスの夫婦。夫は外で女と遊び、妻は浮気をする。


文章読本 (中公文庫)
谷崎 潤一郎
中央公論社 ( 1996-02-18 )
ISBN: 9784122025356


異才谷崎の文章術の本。


春琴抄 (新潮文庫)
谷崎 潤一郎
新潮社 ( 1951-02-02 )
ISBN: 9784101005041


盲目でわがままな三味線奏者のお嬢様春琴と丁稚の佐助。佐助はやけどした春琴の顔を見ぬため、永遠に美しい春琴の顔を封じるために、自らの目を貫く。


読みたい

細雪 (上) (新潮文庫)
谷崎 潤一郎
新潮社 ( 1955-11-01 )
ISBN: 9784101005126


読みたい、と言ったものの三巻構成!

「鶴子」「幸子」「雪子」「妙子」四姉妹の物語。鶴子、幸子は既婚、雪子は30歳を過ぎて独身、妙子は20代半ばで自由奔放、複数の男と遊ぶ女。幸子は、谷崎の妻、松子がモデルとのこと。


卍 (新潮文庫)
谷崎 潤一郎
新潮社 ( 1951-12-12 )
ISBN: 9784101005089


女性二人の同性愛の話。



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