デービッド・アトキンソン 新・観光立国論
デービッド アトキンソン
東洋経済新報社 ( 2015-06-05 )
ISBN: 9784492502754

はじめに 日本を救うのは「短期移民」である

第1章 なぜ「短期移民」が必要なのか

第2章 日本人だけが知らない「観光後進国」ニッポン

第3章 「観光資源」として何を発信するか

第4章 「おもてなしで観光立国」に相手のニーズとビジネスの視点を

第5章 観光立国のためのマーケティングとロジスティクス

第6章 観光立国のためのコンテンツ

おわりに 2020年東京オリンピックという審判の日


アトキンソン氏の著書を読むのは二冊目になります。一冊目の書評はこちら↓。



本書は、観光事業者のみならず、鉄道事業者、歴史建造物や文化施設の管理者の方には、一読いただきたい本です。日本政府も、彼を観光庁のアドバイザーとして起用すべきでしょう。


人口減少が進む日本で、拡大が見込める産業の一つが観光産業です。GDPに占める観光産業の割合は世界平均で9%ですが、日本では2%です。日本政府は、東京オリンピックの開催年である2020年に、訪日外国人数の目標を2500万人としていますが、諸外国と比較すれば、その目標値は低すぎるとし、アトキンソン氏は2030年の訪日外国人数のポテンシャルは8200万人と言います。アトキンソン氏はアナリスト出身らしく、「おもてなし」などと言った情緒表現に流されることなく、日本のポテンシャルを冷静に分析した結果です。


日本には、それだけの外国人を呼び込むための魅力が備わっています。観光立国の4条件は、「気候」「自然」「文化」「食事」とのことですが、日本はこの4条件が整っています。しかしながら、その魅力を十分に発揮できているとは言えません。日本人が見落としている多くの示唆を与えてくれます。どうも、我々日本人は、奇をてらった表面的な施策に目をむけがちですが、もっと足元を固めたほうがいいのでしょう。


足元を固める


日本人は、「おもてなし」の精神が、訪日外国人を迎える上での価値だと考えています。しかし、アトキンソン氏は、日本人は「おもてなし」を分かっているのか?と断罪します。


アジアからの観光客は、買い物にお金を落としてくれますが、欧米からの観光客(特に支払い能力の高い30代以上)は、どちらかというと、文化や史跡名跡に興味を持ちます。寺社仏閣などの日本の歴史的建造物で、果たして外国人を招き入れるのに十分な対応ができていますでしょうか?


ひとつにアクセス経路となる鉄道です。英語表記がまだまだ少ないし、現金しか使えないケースも多々あります。もう一つが、史跡名跡に対する説明です。日本人向けに説明書を英語に翻訳しただけでは意味がありません。前提となっている知識が違うからです。


本書では、二条城でこの例が出てきます。二条城は「大政奉還」の舞台となった城です。「大政奉還」の展示がなされているそうですが、日本人には「大政奉還」が何であるかを説明する必要はありません。しかし、価値観を異にする欧米人には、その意義を説明する必要があります。


革命により王政を廃止し民主主義を確立してきた欧米人たちの感覚からは、「大政奉還」というのは時代に逆行しているわけで、日本の近代化のスタートは、実は欧米とはまったく異なるアプローチでなされました。そのシンボリックな出来事である「大政奉還」が行われた場所が二条城です。二条城を訪れることでその歴史への理解を深めてもらえれば、満足度が上がるでしょう。しかし、残念ながらそのような説明はなされていません。今すぐにでも改善してほしいものです。


外国人観光客を増やす阻害要因にならないか?


そのような交通アクセスや説明を省き、「おもてなし」を論じても、そもそもアクセスもできなければ理解もされません。「面倒くさいし、なんかわからなかったな」という印象を与えてしまうと、日本への観光をリピートしようという動機を消失させてしまいます。訪日外国人を増やすには、一度来た外国人観光客にリピートしてもらう、口コミでまわりにその良さを伝えてもらうのが一番です。これは別に観光に限った話ではありません。不便な交通アクセスや不十分な説明は、外国人観光客を増やす阻害要因になります。


「おもてなし」とか「アニメ」とか「ゆるキャラ」とか、そういう表面的・情緒的なことではなく、交通アクセスや英語の説明など、まずは当たり前レベルのことから整備していく必要があることを、本書を通じてあらためて痛感した次第です。


この本を読んでから、あらためてJRの駅の券売機で、外国人がまごついているのが気になるようになりました。JRの券売機は、かつてのガラパゴス携帯のように複雑怪奇です。単に翻訳をする、クレジットカード対応にするということではなく、スマート化・シンプル化が必要だと感じます。


JR Ticket Machine

画像出典:Ari Helminen ライセンス:CC BY 2.0


「JR Ticket Machine」でGoogle画像検索すると、たくさん、訪日外国人が投稿したと思われる写真がたくさん出てきます。複雑な券売機を面白がって撮っているのでしょう。あるいは、これから日本を訪れる人向けに、親切に説明しようとしているのかもしれません。いづれにせよ、複雑な券売機は、訪日の阻害要因にはなれど、訪日の動機になることはありません。



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