画像出典:イギリス国会 Copyright:Parliamentary Copyright
<目次>
序文
第1章 ロイヤル・ウェディングの記号論
第2章 柔らかい立憲君主制
第3章 女王と政治家 サッチャーの軌跡
第4章 階級社会とブレア近代化路線
第5章 アングロ・サクソン流の終焉
第6章 イギリス経済の復元力
第7章 スコットランド独立騒動が示した連合王国の限界
第8章 激動期の連合王国
第9章 ソフトパワー大国への脱皮
今でも世界を制しているのはアメリカではなく、イギリスではないかと考えています。アメリカを裏でコントロールしていると言ってもよいでしょう。私がそう考えるに至った主な理由は以下の4点です。
- 世界共通語の英語
イギリス人の母国語である英語が世界共通語になり、インターネットの時代にその傾向が加速中であること。 - 旧植民地の発展
アジアの国々の中で、かつてイギリスが植民地支配していた国々(シンガポール・マレーシア・香港)が周辺国(オランダが支配したインドネシア、フランスが支配したベトナム)と比べて経済発展が速いこと - 植民地経営で培われたマネジメント能力
長い植民地統治経験により、世界を統治・マネジメントする能力のある人間を今日でも多く輩出し続けていること。 - 留学生の数
おそらく人口比で受入留学生数が突出して高いこと。
そして、あらためて本書を通じて理解した点を要約すると4点になります。
- 民主主義・自由主義を作った国
我々が現在正しいと考えている政治体制としての民主主義(vs. 絶対王政や封建主義)、経済体制としての自由主義・資本主義(vs. 社会主義・共産主義)を作ったのは、イギリスだという事実。 - 成文憲法のない国
現在の民主主義を発明した国であるのにも関わらず、成文憲法を持っていない事実。 - 立憲君主制
世界で最も成熟した民主主義の国が立憲君主制を敷いているという事実。選挙により国民の意思を尊重しながらも、総理大臣の最終決定権は女王にあるという事実。 - 国家の柱の王室
そんな王室を国民が愛し、王室が国民の愛国心の、国の統合の、英連邦統合の柱であること。
民主主義・自由主義を作った国
1776年のアメリカ独立戦争、1789年のフランス革命に先んじて、1642年の清教徒革命、1689年の無血革命で国王の権限を制限し、民主主義を確立しました。さらにさかのぼれば、現在の民主主義への第一歩となったマグナ・カルタ憲章が制定されたのは1215年です。今年はその800周年になります。日本で言えば、鎌倉幕府の初期になります。
なぜ、イギリスでは国王が処刑されず、現在も王室が存在し、立憲君主制が継続しているのか、その歴史的背景も分かりました。貴族の世俗化・非階級化が進んだことにより、庶民の王族・貴族に対する憎しみが大陸ヨーロッパほど増長することがなかったからではないかと筆者は推察します。
イギリスの貴族社会はフランスの閉鎖的な貴族社会と違い、結婚相手ひとつを見ても流動性は高く、それ(貴族社会が階級的により開かれていること)がイギリスで本格的な革命が起こらなかった理由です。(保守党上院院内総務のクランボーン子爵)
成文憲法がない国
今日の民主主義を確立した国であるのにも関わらず、イギリスには成文憲法がありません。対して、革命により民主化したフランスや、ビスマルクの強権により国家統合を図ったドイツは成文憲法です。この違いが、ヨーロッパ大陸とイギリス・アメリカの法体系の違いを生み出しているようです。
マグナカルタや権利章典は今も、イギリスの不文憲法を構成する重要な要素である。先例、慣例を尊重し、成文憲法を持たないメリットは、事態に対処する際の柔軟性の確保にあると先に指摘した。
理性主義を重んじるフランスは、経験主義のイギリスにとって胡散臭く、あまり肌にあわない。
- 以上本書より
大陸法系は成文法を法体系の中心におく。英米法系は判例法を法体系の中心におく。
大陸法系は違憲審査に消極的である。英米法系では司法による違憲審査が通常である。
安全保障よりも憲法解釈が議論の中心って・・・
現在、日本の国会では集団的自衛権の法整備にあたり、成文憲法の「解釈」を巡って論争中ですが、成熟したイギリスの国会のあり方を知ってしまうと、国家の安全保障そのものよりも、憲法解釈が議論の中心となってしまう日本の国会のありようが、実に滑稽に見えてしまうのは気のせいでしょうか?
憲法学者の意見も傾聴に値するが内閣総理大臣が従わなければならない憲法解釈は最高裁の判断。
- 出典:橋下徹@t_ishin
民主、共産の議員には、日本の防衛をどうしていくべきなのか、アメリカとの関係をどうしていくべきなのか、国会論戦の中で聞いてみたい。もちろん、自民、公明、維新の国会議員にも、本当に国の運命を委ねてもいい人たちなのか国会論戦の中で明らかにしてもらいたい。
- 出典:橋下徹@t_ishin
現在国会審議中の安保関連法案に関しては誰がどう読んでみても憲法違憲との指摘を受け得るものでありましょうが、それは解釈の問題であって法文的な解釈だけでなしに現在・将来を見据えつつ為される解釈こそが在るべき姿というものです。
このお二人の意見にまったく同感です。
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本書は、6月11日の朝活読書サロンで紹介しました。
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