今度、『妖怪ウォッチ』に取り組むので、ちょっと妖怪の薀蓄を押えておこうと思ったのですが、失敗しました。本書は、本のタイトルのとおり「事典」です。読み物ではありません。読み物になっているのは、序文とあとがきの合計10ページです。あとはひたすら、妖怪の説明です。
妖怪ブーム
昨今、妖怪ブームらしいです。近代文明へのアンチテーゼといったところでしょうか。
昨今の妖怪に対する広範な人びとの関心は、それを不健全な流行と見るよりは、文明の危機のあらわれと受け取る方に、私は与する。 (P3)
今日の妖怪ブームは半世紀にわたる戦後教育によって、眼に見える世界だけを信じることに慣らされてきた日本人が、眼に見えないものへの畏敬を取り戻そうとする振子作用のあらわれである。 (P3)
自然への畏怖の念
日本に住んでいると分かりにくい日本の長所の一つが四季によって色とりどりに様相が変わる自然です。
そして、この豊かでもあり厳しい自然と人間との関係、人々による自然への畏怖の念が妖怪を創出したのではないか、ということです。
古代から森の深かったこの国の自然と人間を考えるよすがとなるものの一つが妖怪ではないかと思い始めている底に、このイメージがある。 (P284)
しかし、江戸時代になり、平和になり、開墾が進んでしまうと、自然への畏怖がなくなり、奇怪で恐ろしい創作物が増えていったとのことです。ロクロクビなどは、その際たるものでしょう。
江戸時代になって妖怪の相はかなり変化する。祈りは忘れられ、奇怪な妖怪が多出する。(中略)それは個人の創出かもしれないし共同幻想かもしれない。それはいまとなってはわからないが、ほとんど共通するのは闇への恐怖のみといっていい。 (P285)
妖怪事典
さて、本題(?)に戻りまして、本書は「事典」です。とにかく日本全国の妖怪が網羅されています。索引を見る限り、700強の妖怪が紹介されています。しかも、すべて出典付です。江戸時代も含めてどこかの文献に登場したものを網羅的に取り上げています。よく調べた。すごい!そして、文献に現れない妖怪は、掲載されていません。都道府県に分類してあり、河童のようなメジャーな妖怪は、何度も登場します。たとえば、岩手県のカッパは次のとおり。
カッパ 水の怪。河童。真っ赤な顔で、足跡は猿に似ており、長さ三寸、親指が離れていてる。松崎村で二代にわたり河童の子を産んだ家があり、子は醜怪な形だった。栗橋村橋野の大家には、駒引きに失敗した河童の詫び証文がある(柳田國男『遠野物語』)。
10回以上登場する妖怪は全部で5人(匹?)。
- カッパ(河童):31
- タヌキノカイ(狸の怪):22
- キツネノカイ(狐の怪):18
- テング(天狗):14
- ネコノカイ(猫の怪):12
要は、河童と天狗と化けることのできる3匹の動物です。これが江戸時代以前より古くから伝わる大和の妖怪でしょう。
映画の中の河童
見ました。おすすめです。
関連リンク
- 妖怪と遊ぶ 『全国妖怪事典』著・千葉幹夫 | 読書人の雑誌『本』より | 現代ビジネス [講談社]
- 1972年頃の妖怪図鑑が凄すぎる | 駄文と書評
こっちの妖怪図鑑のほうがおもしろそう! - スナーク森 『日本怪異妖怪大事典』レビューのようなもの
いろいろ探してみたのですが、どうも『全国妖怪事典 (講談社学術文庫)』の書評はないようで、おそらく一番乗りではないかと思います。
それではまた。
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