<目次>
  • はじめに
  • プロローグ 涙から笑顔へ 赤ちゃん縁組のある風景 矢満田篤二
  • 第1章 「特別養子縁組」とは何か? 矢満田篤二
  • 第2章 なぜ私は「赤ちゃん縁組」を始めたのか
  • 第3章 反応性愛着障害 子どもが必死に訴える姿
  • 第4章 「愛知方式」とは 子どものための縁組
  • 第5章 「赤ちゃん縁組」との出会い 萬屋育子
  • 第6章 「赤ちゃん縁組」を広げるために
  • あとがき 矢満田篤二
  • 巻末資料 愛知県分 新生児(養子縁組型)里親委託・年度別集計表
  • 「赤ちゃん縁組」が問いかけるもの NHK名古屋放送局 報道番組ディレクター 野村亮
  • 「赤ちゃん縁組」を全国へ NHK国際放送局 World News部記者 山本恵子


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「特別養子縁組」というのをご存知ですか?名前は聞いたことがあったものの、中身については知りませんでした。本書を読み終え、「特別養子縁組」という制度を世の中にもっと知って欲しいと願います。


自己責任論の呪縛からの解放を


親が子どもを育てられない理由というのは様々なものがあります。父親不在で母親が未成年であったり、望まない妊娠だったりするケースです。そのような状況でも、「親が育てるべき」という自己責任論がつきまといます。


しかし、自己責任論にはある視点が欠落していると思います。赤ちゃんには親の愛情の下に育てられる権利があるという点です。


本書を読むまで、親が子どもを育てられない場合、子どもは養護施設に入れられるのが普通だと思っていました。確かにそうです。養子縁組はまだまだマイナーです。一方、欧米では養子縁組が盛んです。この彼我の差はなんでしょうか?


戦前の日本は養子縁組が盛んでした。もっとも、目的は赤ちゃんの保護というよりも跡継ぎを得ることでしたが。戦後の日本は、家父長制の廃止、アメリカからの個人主義の思想の輸入により、核家族化が進行し、養子縁組も減りました。


一方、当の個人主義の国アメリカはどうかというと、養子縁組が盛んです。キリスト教精神、奉仕の精神に基づきます。日本社会の問題は、キリスト教精神抜きに個人主義を輸入してしまったことにあると考えています。行き過ぎた自己責任論のルーツもここにあるのではないでしょうか(※)。


本書を読んで、日本人は自己責任論の呪縛から解き放たれなければならないことを痛切に感じました。


※本書ではキリスト教精神抜きの個人主義についての言及はありません。齋藤孝氏の著書『「意識の量」を増やせ!』を参照ください。


児童養護施設と特別養子縁組


本書を通じて、特別養子縁組の必要性がよく分かりました。


養子縁組制度には二つあります。一つは一般的な養子縁組で、戸籍上「養子」と記載されます。もう一つは特別養子縁組で、1988年の民法改正で制定されました。6歳までの子が対象で、戸籍上「実子」と記載されます。本書で取り上げているのは、生まれたばかりの赤ちゃんの「特別養子縁組」のほうです。


育ててくれる親がいない子どもにとって、セーフティネットとしての乳児院や児童養護施設は必要です。しかし、それだけでは不十分です。


乳児院・児童養護施設で育てられた子どもは、「反応性愛着障害」の割合が多いとのことです。ひらたく言えば、コミュニケーション能力の障害です。人との間合い、距離感をつかむのが苦手で、大人になってから人間関係に苦しむケースが多いとのこと。そのルーツは、赤ちゃんの頃に特定の保護者に育てられなかったことに起因するとしています。


「三つ子の魂百まで」と言いますが、三歳どころか生れて三か月ぐらいの期間が重要とのことです。スキンシップを通じて安心が得られ、愛着が形成されます。相手は産みの親であることがベストですが、愛着の形成対象は、養親・里親でもかまいません。


残念ながら、乳児院や児童養護施設は、保護観察官1人に対して何人かの子どもの面倒を見なければなりません。交代勤務ですし転勤もあります。特定の大人と愛着を形成することができません。


特別と一般を合わせた養子縁組の利用率は1割程度です。養子縁組の少なさにより、欧米からは日本は国家的ネグレクトを犯している国とみなされてしまっているとのことです。


三方良しの特別養護縁組


本書ではいくつかのケースが紹介されています。赤ちゃんが生まれる前から養子先が決まり、生まれたその日のうちに養親が赤ちゃんを迎えに来るというケースもあります。


母親は十代の少女です。親の援助があればいいのですが、そうとも限りません。十代で未婚のまま妊娠したこと自体に罪悪感を感じているでしょうし、生まれてくる子どものことを考えると、途方に暮れてしまうのではないでしょうか?事実、産んですぐに赤ちゃんを虐待死に追いやるケースもあります。


もし、自分の代わりに実の子と同じように育ててくれる大人がいてくれたら、どんなに助かるでしょうか。実際、もらい手が決まると母親は涙を流し、苦しみから解放され、安心するとのことです。


貰い手となる養親も、多くのは場合は不妊治療に取り組み、子を持ちたいと切望している夫婦です。


産みの母親は産んでも育てれないという罪悪感から解放され、一方、養親は子を持つことができ、そして赤ちゃんは安心して育ててもらえます。「三方良し」です。


養親の覚悟


本書で取り上げている「愛知方式」というのは、愛知県の児童相談所で推進している仕組です。「愛知方式」では養親に厳しい覚悟を迫ります。性別を選択させないだけでなく、たとえ未熟児として生まれても、障がいをもって産まれても、拒否をせずに育てる覚悟です。選別は許さないということです。実子の選別ができないのと同じです。


また、家庭裁判所から特別養子縁組の許可が下りるまで1年ほどかかりますが、その間、産みの親が子どもを返してほしいと願い出た場合、返す義務もあります。あと他に、40歳までという年齢制限もあります。


そういう厳しい制約を課しますので、安易に養親になろうという夫婦はいませんし、養親になる人は覚悟をもって育てていますので、その後もうまくいくようです。


あなたに会えてよかった


そして、特別養子縁組で育てられた子どもには、事実を知る権利があります。養親には、事実を告知する義務と、告知の仕方が分からないことの間の板挟みとなり、大きな葛藤が生じます。しかし、著者の一人・萬屋育子さんの以下の言葉を知れば、その葛藤から解放されるのではないでしょうか?


あなたは私が産んだのではないと伝えるのが真実告知じゃないんです。あなたに会えてよかったという気持ちを一緒に伝えてはじめて意味があるんです


このメッセージを読んだ時、オフコースの『言葉にできない』が心にリフレインしました。「あなたに、会えて、本当に、よかった。うれしくて、うれしくて、言葉に、できない」。


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赤ちゃん抱っこ
credit : jakobking85 via pixabay.com (license : CC0)


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